405. 誰でも、なる。誰でも、なおる。
依存症の予防教育や啓発活動に取り組むNPO法人ASK(アスク)のホームページに、「薬物報道ガイドライン」1)が公開されています。このガイドラインは、ASKや依存症に携わる精神科医などにより策定されたものです。具体的には、「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと、「人間やめますか」など薬物使用者の人格を否定するような表現は用いないこと、「犯罪からの更生」だけでなく「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと、などが掲げられています。
しかし、このガイドラインは残念ながら実際の報道では適切に運用されていないのが実情です。昨年9月、俳優S氏が大麻取締法違反の容疑で逮捕されました。するとマスコミは一斉に過剰な報道を始めました。テレビでは、S氏が警察官により連行される様子が映し出されました。ワイドショーでは、薬物問題のことを全く理解していないコメンテーターから、S氏の人格を否定するかのような言葉が出されました。このようなバッシング報道にふれ、私は激しく憤りを覚えました。薬物問題について正しい知識を啓発しなくてはと感じ、私が購読している地方紙(注:私が推しに推しまくっているVチューバ―さんを公認している新聞社です)の「読者登壇」コーナーに次の文章を投稿しました。
- 先日、某俳優が大麻取締法違反の容疑で逮捕された。するとマスコミは一斉に過剰な報道を始めた。テレビでは、自宅前で警察の車に乗る本人の映像が流され、コメンテーターからはあたかも彼の人格を否定するかのような言葉も聞かれた。
- 我が国では、違法薬物を使用した者に対し、「人格に欠陥がある」などという論調で制裁を加える傾向にある。しかしこれは誤った対応である。バッシング報道は、当事者に対する差別や偏見を助長し、彼らの回復を著しく妨げる恐れがある。
- 薬物を使用する背景には、本人の「生きづらさ」があると言われる。適切な治療や自助グループに繋がることで回復可能であり、実際に社会復帰した当事者も多い。むしろマスコミは「回復可能なものであり、相談や治療を」と啓発することが本来の使命ではないか。
しかし残念なことにこの投稿は採用されませんでした。「ボツ」になった要因として、私の文章の拙さもあると思いますが、新聞社側に、「違法薬物を使った犯罪者に対してバッシングをして当然だ」「安易に『回復』という言葉が使われると、違法薬物に対する抑止効果がなくなる」などという考えが根強くあったのかもしれません。
我が国では、「違法薬物は『ダメ、ゼッタイ』」とか「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」など、一度でも違法薬物を使用したら人生が破綻するなどという教育が行われてきました。実際に、子供たちが描く薬物乱用防止ポスターには、ドクロやゾンビなどグロテスクな内容の絵が多く入賞しています。確かに、「ダメ、ゼッタイ」はある意味、違法薬物を使用させないための「一次予防」としては役に立つ部分はあるかもしれません。しかしながら、薬物を使用する背景には、貧困・いじめ・虐待・孤立など、社会的問題が根強く関わっているとされています1)。そのつらさを和らげるため、何とか「生きていく」ための「自己治療」として薬物を使用してしまう、やめようと思ってもやめられないというのが彼らの実情です。このような苦しみの渦中にある当事者に対し「薬物はやめろ」「一度でも違法薬物を使ったら廃人になるぞ」と精神論的にこき落とすことは、かえって有害です。むしろ支援者は、当事者の根底にある「生きづらさ」を理解することが大切といわれます。また、当事者に対するバッシングはますます本人の自己肯定感を下げ、回復を阻害する要因となります。実際にバッシング報道を受け、うつ病になってしまった当事者の話も聞きます。当事者にとって必要なのは、決して精神論的なバッシングではありません。適切な治療や支援、そして自助グループにて仲間とつながることが大切なのです。
ところで、私はこれまでに、薬物から回復された方々のお話を多く拝聴してきました。こちらのブログでも、高知東生さん(334話など)、田代まさしさん(358話)を紹介させていただきました。それに加え、最近忘れることができない出来事がありました。昨年12月、「依存症シンポジウムIN大阪」に伺った際のことです。シンポジウムでは、近年急増している市販薬依存の問題がクローズアップされ、会場は重々しくなりました。しかしそのあとの、杉田あきひろさんのミニコンサートで急激に明るい雰囲気になりました。杉田さんは、NHK「おかあさんといっしょ」の元うたのおにいさんとして活躍しました。しかし2016年に覚せい剤の使用で逮捕されてしまいます。その後、回復施設「ダルク」に入寮し、回復を目指します。2019年には「依存症予防教育アドバイザー」の認定を受け、現在は依存症の啓発活動を続けています。その日の杉田さんは、心筋梗塞と診断されたばかりとのことで、たいへん苦しそうな様子でした。しかしそんな中、「おかあさんといっしょ」の曲を歌い、その後西城秀樹さんの「ヤングマン」を熱唱しました。会場の全員で「YMCA!」と歌って踊り、場内は熱気に包まれました。私は、回復のすばらしさをあらためて感じたのでした。
2026年が始まりました。今年も私は、依存症等の正しい知識について啓発していきたいと思っております。
1) 「改訂版 薬物報道ガイドライン」
https://www.ask.or.jp/article/58860
【補足】今回のタイトル「誰でも、なる。誰でも、なおる。」について。一昨年「ギャンブル依存症問題を考える会」主催にて、「ダメ。ゼッタイ。」に代わるキャッチコピーが募集された結果、大賞にこの言葉が選ばれました。わかりやすく、リズムがよく、たいへん秀逸なキャッチコピーだと思っています。
(昨年5月のギャンブル依存症の講演(371話)で使用したスライドです)
