410. 間違いだらけの「ギャン太郎」動画
先日、X(旧ツイッター)のタイムラインを閲覧していたところ、ギャンブル依存症問題を考える会代表・田中紀子さんの投稿1)が目に留まりました。最近公開された大阪のギャンブル依存症啓発動画に対して痛烈に批判する内容です。「大阪府が若者向け(高校生)のギャンブル依存症啓発動画を公募し、株式会社博報堂プロダクツ関西支社が選ばれました」「しかし我々は出来上がった動画を見て愕然としています」「これのどこがギャンブル依存症の啓発動画なのでしょうか?」などと田中さんは述べていました。
田中さんのポストには動画のリンクも貼られていました。さっそく私も視聴してみました。この動画の冒頭で桃太郎風の高校生「ギャン太郎」は、違法賭博のサイトを見つけ、「ラクして生きる道を見つけた!」と言っていました。この時点で私は吐き気がしました。これは、「ギャンブル依存症は怠けや性格の異常により生じるものだ」という誤ったイメージを与えかねないと感じたためです。そのあとも、違和感だらけでした。「本能に任せて動いたら、自分が『鬼』になってしまう」という表現は、あたかも「依存症になったのは自己責任だ」と言いたいのではと勘ぐってしまいますし、「(依存症を克服するためには)自分の中の鬼に勝つ」という場面は、根性論で依存症を治すべきだという誤解を与えます。そして、相談すれば速やかに依存症が治るかのような表現も医学的な考え方を完全に無視しており、しかも極めて稚拙な演出です。この動画は、全体的に軽いノリでストーリーが進行しており、そこが関西らしいのですが、依存症当事者の苦悩に寄り添っているとは全く思えませんし、逆に当事者の方々に対し侮辱しているのではと感じずにはいられませんでした。とにかくこの動画は、ギャンブル依存症に対する差別や偏見を助長するものであり、高校生などの若者に決して見せてはなりません。私は、この制作者や審査員はギャンブル依存症について全く理解していない!と非常に憤慨いたしました。
一方で、現在大阪の夢洲では大阪IRの建設が進行中です(403話)。カジノを作るにあたり、大阪府と大阪市は「依存症対策をしっかりとやります」と明言していました。しかしながらこの間違いだらけの動画をみて、実際には全く依存症対策は進んでいない!と愕然としました。
この動画の公開後、専門家らからの批判が相次ぎました。結局、例の「ギャン太郎」動画は一時公開停止になりました。
なお、この動画は約700万円で制作されたそうです。更にはこの動画の制作にあたり、専門家による監修は全くなかったとのこと。約700万円の税金をそのままドブに捨てたようなものです。
このブログで何度も申し上げている通り、ギャンブル依存症は脳の機能不全が生じるれっきとした「病気」です。決して己の怠けや性格の異常で生じるものではありません。誰でもこの病気に罹患する恐れがあります。「自分の鬼に勝つ」などという精神論では決して治りません。また、1回相談すれば完全に治るというものでもありません。依存症からの回復について、当事者の田中恵次さんは「生涯続く長い道のり」と自身のX2)で述べています。
それに、オンラインカジノは違法であり、その使用は犯罪にあたります。更には依存性が強く、1週間程度で借金をしてしまうというケースも稀ではなく、極めて危険なものです(368話)。
もう「ギャン太郎」動画は二度と公に出さないでほしい。そして医学的な根拠に基づいた内容の作品に差し替えてほしい。そう切に願います。
【引用】
1) 田中紀子さんのX(1月27日投稿)
https://x.com/kura_sara/status/2015997474817949970
2) 田中恵次さんのX(1月30日投稿)
https://x.com/k_tanakaname/status/2017117700200550804
【参考サイト】
Addiction Report「ギャンブル依存症の支援団体、専門医らが大阪府に啓発動画の削除、是正を求める要望書を提出」
https://addiction.report/NaokoIwanaga/gyantaro-youbousho
公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 違法オンラインカジノ啓発動画に関する削除要請および是正要望書 2026年1月30日
https://www.scga.jp/news/request-for-osaka-prefecture-awareness-video/
☆私もこの要望書に賛同させていただきました。
