416. 鉄サプリ 安易な使用にご用心
栄養医学の分野で代表的な病態として、「鉄欠乏性うつ」というものがあります。体内の鉄が不足すると、易疲労感、気力減退、イライラ感など、うつ病に類似した状態になることがあります。通常の健康診断では貧血の所見が明らかでなくても、詳細な血液検査にて「鉄欠乏」と判断されるケースによく遭遇します。このようなケースに対し、鉄剤(あるいは鉄サプリ)の投与を含む栄養医学的なアプローチにて改善することも期待できるとされています。
最近では栄養医学関連の書籍が多く出版されており、これを読んで自己判断で鉄のサプリを始めるケースもよく見かけます。しかし、鉄サプリの使用はできる限り慎重にすべきというのが私の本音です。そもそも「鉄欠乏」「鉄不足」のない方が鉄サプリを服用しても意味がありません。また、「炎症」の所見がある方は鉄サプリや鉄剤の服用を避けるべきという意見もあります。炎症(代表的なのは「脂肪肝」「腸内環境の悪化」です)があると、体内の鉄がうまく利用できないため、「鉄欠乏」と同じような症状を呈することもあります。そのような方が安易に鉄サプリを服用してしまうと、その鉄は腸の悪玉菌のエサとなり、腸内環境が悪化し、腸の炎症が悪化する恐れがあります1)。このようなことから、血液検査を行なって、「鉄不足があること」かつ「炎症がないこと」を確認してから鉄サプリを服用したほうが無難かと思います。
より注意すべきなのは、海外で製造された鉄サプリです。栄養医学についての数々の著書を出版し、SNSで情報を発信している某心療内科医は、キレート鉄(商品名「フェロケル」)を強く推奨しています。その医師は「フェロケル」について、①鉄の吸収率が高い(よって効果発現が早い)、②鉄剤で生じうるような胃腸症状(胃のむかむか感、吐き気など)が少ない、③安価である、と謳っています。また、このサプリで鉄過剰症になったことはないと豪語しています。しかしながらこれは誤りです。杉森先生らは、「フェロケル」の長期服用による鉄過剰症のケースを報告しています2)。その患者さんは15歳女性で、約3年間「フェロケル」を服用した結果、口内炎と歯茎の腫れなどの健康被害が出現したもので、腹部MRIにて肝臓などに強い鉄の沈着の所見が認められました。この鉄を体外に出すために、この患者さんに対して毎月100mlの瀉血を約2年間実施したそうです。なお、「フェロケル」に関する注意喚起は国民生活センターのウェブサイトでも閲覧できます3)。もし読者様が「フェロケル」を服用されているのであれば、今すぐその使用を中止されたほうが賢明です。
1) 奥平智之:血液栄養解析を活用!うつぬけ食事術.KKベストセラーズ、東京、2019.
2) Sugimori N, Jinnouchi Y, Mizoguchi T: Secondary Iron Overload Due to Amino Acid Chelated Iron Supplementation: A Case Report Involving a mother and Daughter. Cureus 17(1): e77251. DOI 10.7759/cureus.77251
