メニュー

426. 1984

[2026.05.29]

 大学2年のころ、医学部の授業の一つに「医学英語」がありました。これは必修の科目ではないことから、受講した学生は多くありませんでした。私は、解剖学のT教授(294話)の教室にお邪魔して「医学英語」の授業を受けました。受講したのは私を含め2名。T教授の授業で使用した教材は、ジョージ・オーウェルの小説「1984」の原著(英語)でした。独特の言い回しが多く、非常に難解な文章でした。我々学生2人はポカーンとしていました。結局我々がついていけないことをT教授が察知されたためか、別の教材(ジョージ・オーウェルの「Animal Farm(動物農場)」)に切り替えられたのを覚えています。

 それから約20年経過し、大型書店で偶然にも「1984」の翻訳本を見つけました。高橋和久さん訳の「一九八四年」(ハヤカワ文庫)です。大学時代のT教授の授業を思い出し、読んでみたいと思い購入いたしました。そして数年前には、田内志文さんによる新しい翻訳本「1984」(角川文庫)が出版され、それも買いました。

 「1984」の舞台は、「オセアニア」という架空の国。<ビッグ・ブラザー>が率いる政党により支配された全体主義国家です。いたるところに<ビッグ・ブラザー>のポスターが貼られており、「BIG BROTHER IS WATCHING YOU(ビッグ・ブラザーがあなたを見ている)」というメッセージも書かれています。「テレスクリーン」という装置により人々の言動は24時間体制で徹底的に監視され、<ビッグ・ブラザー>に抗う思想をもった市民は思想警察により逮捕されてしまいます。この小説の主人公は、ウィンストン・スミス。歴史を改ざん、政治家の失言を議事録に記録しないなど、政府に都合の悪い事実を消す「真理省」に勤務しています。その彼は、完璧な屈従を強いる党の体制に不満を抱く・・・というストーリーから始まります。

 約80年前までの日本も「治安維持法」という法律により言論統制が大変厳しく、政府に反する意見をした国民はことごとく逮捕されました。中にはひどい拷問を受けた人もいたそうです。森田療法を創始した精神科医・森田正馬先生も、彼の療法の真髄である「生の欲望」を提唱しただけで特高警察に逮捕されてしまった出来事もありました(のちに釈放、詳細は64話)。「生の欲望」とは、「よりよく生きたい!」という願望のこと。この考えが、当時の国の思想である「お国(天皇)のために命を捨てることは素晴らしいこと」「命を惜しむようなことはもってのほかということ」に反するというのが逮捕の理由でした。
 その一方で、現代の日本では(2026年5月現在)、どのような学説を提唱したとしても、ましてや政府に対する批判を言ったとしても逮捕されることはありません。これは、日本国憲法第21条(注1)により、表現の自由が保障されているからです(注2)。「ドラえもん社会ワールド 憲法って何だろう」(小学館)に大変分かりやすい説明がありますので引用いたします。

 人は文章や絵、音楽などの表現をすることで、自分の考えを明確にでき、人間として成長していく。また表現を通して、自分の考えていることや感じていることを、ほかの人に伝えられる。ある目的のために集まって会を開き、意見を発表することも重要な表現だ。表現は文化の形成のためにも、民主主義を実現する上でも大切なものなんだ。
 しかし、国が「これはよい、これはよくない」とチェックするようになると、自由な表現はできなくなる。だから、国が国民の表現をチェックすることができないんだ。

 自らの考えや信念などが自由に表現できる世の中が末永く続きますように。悪い政治家によって、わが国が小説「1984」のような冷たい全体主義国家に変えられませんように。森田先生の時代のように、国民が監視され、表現の自由が制限される戦前の世の中に戻りませんように・・・

 

(注1)
第二一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

(注2)ただし、他者に対する侮辱や名誉棄損の発言をした場合は、処罰の対象になりますし、相手から訴えられる恐れもあります。

 

 

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME