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どくとるあるぱかのブログ

96. 流言蜚語(デマ)の心理(2020.03.13更新)

 先日ツイッターをチェックしていたところ、トイレットペーパーやティッシュペーパーが品薄になっているという情報を知りました。実際に近くのコンビニやスーパーなどへ行ってみると、トイレットペーパーやティッシュペーパーは売り切れの状態で、びっくりしました。
 これは、「新型コロナウイルスの影響で、中国でトイレットペーパーの生産ができなくなった」とか「中国から原材料が輸入されなくなった」というデマが広がったことが原因とされています。

 デマが大きな社会問題になったことはこれまでに何度もあります。今回と同じトイレットペーパーの例では、1973年のオイルショックがあります。「原油高騰により、紙がなくなってしまうかもしれない」という集団心理1)により、店頭のトイレットペーパーが一気になくなってしまった出来事です。また、2011年の東日本大震災直後でもデマが問題になりました。大津波で甚大な被害を受けた宮城県で、「外国人の窃盗団がいる」「外国人による性犯罪が多発している」などのデマが広まったことで、被災地は混乱に陥り、警察が「デマに惑わされないで」という内容のチラシを配るなど対応に追われました2)
 1923年9月1日の関東大震災では、デマが原因で死者がでる事態になりました。「不満を持つ朝鮮人たちが暴徒化した」「井戸に毒を入れた」「放火してまわった」「社会主義者たちが暴動を起こした」などの風評が広がり、人々がパニックに陥り自警団を作りました。その結果、暴行、殺害された人々が300人以上にのぼったとのことです3)

 森田療法の創始者である森田正馬先生も関東大震災の被災者でした。ご自宅は壁土が落ちる程度の被害で、火の手も及ばなかったそうです。自警団に加わったものの後に自戒し、このときの体験・心理を冷静に分析し、「大震災時に於ける流言蜚語の心理」という論文をまとめられました3)。これは現代でも「森田正馬全集第七巻」4)で読むことができ、「生の欲望」5)には現代の表記に修正されたダイジェスト版が掲載されています。
 私は勤務医時代にこの論文を要約し、医局の抄読会で発表したことがあります。そのレジュメ6)から特に大切な部分を抜粋します。

・事実無根のこと、甚だしく事実と異なること、針小棒大に誇張したことが、人から人に伝言流布し、火災の飛び火のように、たちまち四方に伝播するために、流言蜚語という。これらは群衆の間に伝わるものであり、この群衆が、驚愕不安・動揺熱狂・混乱しているときに起こりやすい。流言によって、目的を一つにし同じ行動をとる群衆が形成される。群衆という条件を離れ、のちに一人平静の時に考えれば極めて馬鹿げたことで恥ずかしいようなことさえも、その時は事実と思い、その気になってしまうのだ。流言蜚語は、群衆の間に偶然自然に起こるものであり、敵の間者の奇形術策などのように、計画的なものとは区別しなければならない。

・同じ境遇にある群衆がとある事変に直面して、興奮し精神不安になっている時、何か些細なことがあっても甚だしく誇大に感じ、あるいは全く無いことまでも感情的に事実のように感じてしまう。恐怖におびえている人が枯れすすきを幽霊と見るようなものだ。

・群衆の中の誰とはなしに言い出したことが流言となり、それが伝播し、全群衆が同じ心的状態になったものである。(中略)一般的に誰が流言の発端であるかを突きとめることは困難なことで、不可能なことと思われる。ただ、思慮浅く、想像豊かで、軽率で、気の早いものの口から起こり、このような性格の人を加えた数人のおしゃべりから起こるのではないか。

・流言は、老人、物知り、警官、人々の間に権威あるものが言ったものほど、群衆に対する暗示が強い。多数の人が言いはやすようになると、ますます一般の人が信じるようになり、知識があり思慮ある立派な人もこれを信じるようになる。恐怖の感情にとらわれているとき、未知なる危険が起こるかもしれないという想像から、事実無根の噂でも事実であるかのように信じてしまう。

 こちらの論文は大正時代に書かれたものですけれども、テレビやインターネットが普及した令和の時代でも十分に通用するものと考えます。

 

【文献】
1) Wikipedia-トイレットペーパー騒動https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%A4%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E9%A8%92%E5%8B%95
2 ) 荻上チキ:検証 東日本大震災の流言・デマ.光文社,東京,2011.
3) 森田正馬,藤本純子:関東大震災時の日記.生活の発見 2011年5月号,34-41.
4) 森田正馬:大震災時に於ける流言蜚語の心理.高良武久(編集代表):森田正馬全集第七巻;314-342,白揚社,東京,1975.
5) 森田正馬,水谷啓二・編:新版 生の欲望.白揚社,東京,2007.
6) 石川純一:森田正馬著「大震災時に於ける流言・蜚語の心理」を読む.2011/06/03 山形県立鶴岡病院医局の抄読会レジュメ.

 

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