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どくとるあるぱかのブログ

97. 不適正な「適正飲酒の10か条」(2020.03.20更新)

 コンビニの酒類コーナー付近によく「適正飲酒の10か条」のポスターを見かけます。これは、公益財団法人 アルコール健康医学協会1)が作成したもので、以下の10か条からなります。

1.談笑し 楽しく飲むのが基本です
2.食べながら 適量範囲でゆっくりと
3.強い酒 薄めて飲むのがおススメです
4.つくろうよ 週に二日は休肝日
5.やめようよ きりなく長く飲み続け
6.許さない 他人(ひと)への無理強い・イッキ飲み
7.アルコール 薬と一緒は危険です
8.飲まないで 妊娠中と授乳期は
9.飲酒後の運動・入浴 要注意
10.肝臓など 定期検査を忘れずに
しない させない 許さない 20歳未満飲酒・飲酒運転

これは、コンビニだけでなく、自治体の広報誌などでも見かけることがあるかと思います。

 しかしながらこれらの標語は、私見では「適正とは言えないのではないか」と思っております。なぜなら、アルコールの危険性が過小評価され、あたかも飲酒を奨励しているかのような表現とも考えられるからです。しかもアルコール依存症(使用障害)についても配慮されていません(アルコール依存症について詳しくは「アルコール依存症の基礎知識」をご覧ください)。

以下にそれぞれの標語について検証してみます。

1について。談笑しながら楽しく飲酒すれば、アルコールの害を軽減できるという科学的根拠はあるのでしょうか?
2について。確かに空腹の状態で飲酒すると、急激にアルコールの血中濃度が上がる恐れがあり、食べながら飲酒することでアルコール血中濃度の上昇が抑えられる2)と言われています。ただ、「適量範囲」と書かれているものの、その具体的な量が明記されていません。これでは4リットルの焼酎を1日で飲んでしまうのが適量範囲だと主張する人も出てきてしまいます。それを四六時中ゆっくり飲み続ける状態が、果たして適正といえるでしょうか。
3について。確かに「濃い酒類をストレートで飲む習慣」は、食道がんの危険因子3)と言われています。でも酒を薄めたところで、アルコールの危険性が無くなるわけではありません。薄めた酒を連続的に大量に飲んでしまったら、それこそ危険でしょう。「薄めても お酒のリスクはなくならない」にすべきです。
4について。休肝日を作ることで肝障害の進展を予防するという科学的根拠はありません4)。2日飲まない日を作っても、残り5日を大量に飲酒してしまえば、身体状態が悪くなることは目に見えていますから。
5について。確かにもっともらしい標語に思えます。しかし、アルコール依存症の方には、きりなく長く飲み続けるのをやめようとしてもやめられない症状があります。これをコントロール障害といいます。むしろ、「きりなく長く飲み続けをやめずにいられないは依存症のサイン」と言い換えたほうがいいでしょう。
6について。その通りです。特に、大学の新歓コンパ等で新人に酒の無理強いをした結果、急性アルコール中毒で死に至らせたというニュースがしばしば報じられています。新歓コンパの多い4月ごろに大学などで大いに啓発すべき内容です。
7について。確かにその通りですが・・・飲酒と服薬の時間をある程度開ければ安全という誤解を招きます。むしろ「服薬している人は酒飲むな」5)と書いたほうが良いでしょう。
8について。その通りです。妊娠中に飲酒することで、そのお子さんに胎児性アルコール症候群を起こす危険性があります。この障害は永続的なものになりえます。また授乳期での飲酒でも、お子さんの発達などに影響を及ぼす恐れがあります。そこで、より危険性を強調して、「妊娠中や授乳期での飲酒で、子どもへの障害を永遠に残す」とするとなおよいでしょう。
9について。おおむね妥当な標語です。飲酒後の運動や入浴は「要注意」どころか大変危険です。巷では運動や入浴をすれば早く酒が抜けるという考えがあるようですが、それは大きな間違いです。
10について。アルコールで障害を及ぼす臓器は肝臓だけではありません。様々な臓器にダメージを与えます。特に脳障害は深刻なもので、障害が一生残ることもあります。肝臓などの定期検査をすればよいものではありません。アルコール依存症の方で肝機能の数値が基準範囲の方も珍しくはありませんから。
番外編。10か条の下に、20歳未満飲酒や飲酒運転について書かれています。20歳未満の飲酒は、心身の健全な発育を阻害する恐れがあります6)し、飲酒運転は社会的にも深刻な問題です。これらがなぜ10か条から外れているか疑問です。それこそ10か条に入れるべきではないでしょうか。

 ところで、「アルコール健康医学協会」についてHP1)で調べてみました。役員名簿を調べたところ、「元厚生労働省」とか「元国税庁」、そして「酒造組合」などの方がメンバーに入っています。これを見ると、「適正飲酒の10か条」は、安定した税収入のため、酒類メーカーへの忖度のため、甘々なものになってしまったのではと疑ってしまいます。しかも厚労省からの天下り職員がこれらの標語を公認するとは、きわめて無責任といえます。それだけではありません。かつてこの協会の会長が、精神科医の斎藤茂太氏(故人)だったのです。アルコール依存症など酒害について第一に啓蒙すべき精神科医の立場でありながら、飲酒礼賛の標語を容認していたとは、正直納得がいきません。

 国民の健康や酒害対策のためにも、よりアルコールの危険性を明確にした標語が必要なのではないでしょうか。

 

【文献】
1)アルコール健康医学協会HP  http://www.arukenkyo.or.jp/
2) アサヒビールHPより https://www.asahibeer.co.jp/csr/tekisei/research/data2.html
3) 横山顕:食堂扁平上皮癌の危険因子と頭頸部・胃を含むfield cancerization.日消誌 2018; 115 : 868-880.
4) 厚生労働省 e-ヘルスネットより https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-063.html
5) 井原裕:うつの8割に薬は無意味.朝日新聞出版,東京,2015.
6) 白倉克之,樋口進,和田清:アルコール・薬物関連障害の診断・治療ガイドライン.じほう,東京,2003.

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