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107. 「僕の性別について。」を観て

[2020.05.29]

 先日、声優・青木志貴さんの動画「僕の性別について。」1)を拝見いたしました。
 青木さんは戸籍上「女性」1)。所属事務所「三木プロダクション」の公式ホームページ2)でも女性声優として紹介されています。
 しかしながら、青木さんの性自認(性同一性)は「男性」。青木さんは動画「僕の性別について。」で、初めて自らの性自認のことをカミングアウトされました。更には「パンセクシャル(全性愛者)」であることも告白されています。

 青木さんは自身の成育歴について次のように語っています。

・幼稚園の頃。ままごとでは女性役をやりたくなかった。男性役(お兄ちゃん役、お父さん役など)やペット役をやっていた。
・小学校低学年の頃から、男友達と遊んでいた。中学年になると、ボーイッシュな服装を好むようになる。親から、男っぽい格好について嫌がられていた。
・親に海パンを買ってもらった。海で泳ぐ際は、スクール水着の上に海パンをはき、上にはTシャツを着ていた。
・中学に入ると、「僕」という一人称に突っ込みを入れられる。「わたし」は使いたくなかったため、「自分」「青木」という一人称を使っていた。
・このころ、4つ年上の女性と付き合うようになる。その頃はレズビアンだと思っていた。
・地元の高校進学。とある男子と仲良くなった。自分はその男子に対して全く恋愛対象とは思っていなかったけれども、その男子から告白を受けた。女性として認識され、恋愛対象を抱かれたことに嫌悪感を覚えた。そこで初めて性自認が男であることに気づいた。その男子とは会いたくなくなり、不登校が始まった。
・親に、自分の性別のことについてカミングアウトした。親からは「気持ち悪い」などと言われ、拒絶された。しかし、学年主任の教師が自宅に来てくれて、性別の違和感のこと、女子の制服が着られないことなどについて話を聞いてくれた。その教師は「青木、つらかったな」などと理解してくれた。その後学校と親との面談の結果、自分の行きたかった東京の芸能学校へ編入できた。
・その学校では「青木武長」という通名を使っていた。男子制服で通学し、男子トイレを使うことが許された。周囲の生徒も自分の性について理解してくれた。
・男になりたいという気持ちから、ホルモン治療、性転換手術を受けたいと思い、病院へ。そこで染色体検査をする必要があるという話を聞いた。性分化疾患を除外する必要があるためである(注)。そこで性分化疾患の存在を初めて知り、一気に視野が広がり、「自分は自分でいいんじゃね」と気付いた。「自分は男にならなければ」という気持ちが薄らいだ。

 なお、現在も青木さんは、ホルモン治療も性転換手術も受けていらっしゃらないそうです。その理由について、「声優という仕事をやっているから。大事なキャラを預からせてもらっているので、ホルモン治療などで声が変わってしまうと、キャラを担当できなくなる。キャラが大切だから」と述べられています。自分の仕事をきちんと大切にされる青木さんの構えに、私は思わず感動してしまいました。
 動画サイトにて、自らの性について、あるがままに告白された青木さんに敬意を表します。
 青木志貴さんを応援していきたいと感じました。

(注)おそらく、「性同一性障害」の診断を確定させるために染色体検査の話が出されたのだと思われます。青木さんが病院を受診された当時は、「性同一性障害」の診断確定をするためには、性分化疾患を除外する必要があり、身体的性別の異常がないことを確認することが必須とされていました。しかし、近年発行されたアメリカ精神医学会の診断基準DSM-5では「性同一性障害」は「性別違和」に病名が変更になり、性分化疾患は除外診断の対象とはならなくなりました。とはいえ、性分化疾患の有無を特定することは必要とされています3)

 

【引用文献、動画、サイト】
1) 青木志貴「僕の性別について。」-YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=IYz_sQNUEfY&t=447s

2) 三木プロダクション公式HP
https://www.mikipro.co.jp/

3) 針間克己:性別違和.樋口輝彦,市川宏伸,神庭重信ら:今日の精神疾患治療指針第2版,医学書院,東京,2016.

 

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