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110. 酔うと化け物になる父がつらい

[2020.06.19]

 先日、映画「酔うと化け物になる父がつらい」を鑑賞いたしました。

 この作品の原作は、漫画家・菊池真理子先生作の同タイトルのコミックエッセイ1)。父の飲酒問題により、家族が巻き込まれていった、著者自身の実体験が描かれています。映画化に際して、人物名やプロフィールなどの変更が施されたものの、原作のストーリーに準じた内容になっています(もちろん映画でのオリジナル要素もあります)。映画では、飲酒問題というシリアスな内容でありながらも、それをコミカルに表現されています。
(以下の記事は、映画版の人物名を用いています)
 主人公は、田所サキ(松本穂香)。父のトシフミ(渋川清彦)、母のサエコ(ともさかりえ)、妹のフミ(今泉佑唯)との4人家族2)。父はアルコールに溺れ、母は新興宗教にハマっています。父は、化け物のような泥酔状態になって仕事から帰宅することが多く、田所一家は、酔っぱらった父の介抱に追われます。
 この作品では一回も「アルコール依存症」(注1)の病名は登場しません。しかしながら、父には、一度飲酒を始めると身体が満足するまで飲酒が止められない「飲酒コントロールの障害」、スーパーで酒を見つけると飲みたくて仕方がない「飲酒への渇望」が認められ、更には飲酒の影響で子どもとプールへ行く約束が果たせないなど生活への支障をきたしていることから、父のトシフミはアルコール依存症である可能性が濃厚と考えます。ただ、仕事は何とかこなしている様子であり、巷でいう「ネクタイアル中」(注2)に近い印象です。
 この映画で最も印象的だったのは、アルコール依存症者の家族の行動や心情がリアルに描写されている点です。休日、田所家に突然3人の男性が押し寄せ、父と4人でマージャンを始めてしまう場面では、母のサエコは4人のために酒づくりに追われます。それがアルコール依存症者家族にありがちな、「世話焼き行動」のように思えました。また、主人公・サキは、自分の感情を出すことで家族が壊れてしまうのではと恐れ、自分の気持ちにふたをしてしまいます。更には、両親から愛情が注がれなかった寂しさを埋めようと、恋愛に依存します。その相手はなんと暴力的なタイプで、サキはその男から暴力を受け続けても付き合い続けます。また、サキの気持ちの内容が、マンガの吹き出しで表現されているところも工夫されている点だと感じます。これは、アルコール依存症者の家族が抱く心情を生々しく描写しているものであり、たいへん勉強になりました。
 この映画は、アルコール依存症によりいかに家族が蝕まれるかが極めてリアルに描かれており、酒害教育の教材としても大いに役に立つ内容と感じました。メンタルヘルスに携わる方や、アルコール依存症の当事者、家族などにもお勧めしたい作品です。おそらく、この映画のブルーレイがしばらくすると発売されることでしょう。その際には、ぜひとも購入したいと考えております。

「酔うと化け物になる父がつらい」公式ホームページ
https://youbake.official-movie.com/


【文献】
1) 菊池真理子:酔うと化け物になる父がつらい.秋田書店,東京,2017.
2) 劇場版パンフレット「酔うと化け物になる父がつらい」

注1:アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5では、「アルコール依存症」ではなく、「アルコール使用障害」という病名が使われています。しかし、このページの記事では、従来の病名である「アルコール依存症」を用いました。
なお、アルコール依存症の基礎知識については、こちらをご覧ください。

注2「ネクタイアル中」:仕事は何とかしていて、外見上生活の破綻は目立たないが、夜になると飲まずにいられず、その結果様々な飲酒問題を起こすアルコール依存症のタイプ。

 

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