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113. パフェは「はからい」

[2020.07.10]

 最近書店を訪れると、書籍「多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。」が平積みで並べられているのをよく目にします。とある著名な精神科医が監修をされており、「考え方を変えることで楽に生きられるよ!」と謳った内容の書籍のようです。表紙には、親しみやすくて可愛らしい猫のキャラの4コマ漫画が描かれています。
 その漫画の内容は、次の通りです(登場するA、B、Xは私が便宜上名付けたものです)。

 主人公猫Aは、黒猫Xから心無いことを言われた。とても傷つき、そのことで頭がいっぱいになった。AはBに電話で相談。B曰く「そんなの気にしすぎだよ。多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ」。それを聞いたAは、Xがパフェを食べているところを想像し、嫌な奴のことを考えるのをやめにした。

 しかも本の帯にその漫画の補足があり、「そう思ったら、嫌な気持ちが頭から消えた!」と書かれています。

 この表紙を見て、私は非常に違和感を覚えました。

 この漫画では、「Xが別の場所でパフェを食べている」という可愛らしいシーンを思い浮かべれば、あたかも嫌な気持ちがパッと消えるかのような主張しています。しかしながらそのようなことで、気分はすぐさま変えられるでしょうか?少なくとも私みたいな凡人には無理なことです。それどころか、不快な気分にますます執着してしまうのではと懸念します。
 このことを、森田療法的に解説してみます。
 Xから嫌なことを言われたことにより、非常に不快な気持ちが生じます。これは自然現象であり、どうにもなりません。しかしながら「Xがパフェを食べている」場面をイメージすることで嫌な気分を消そうとすると、その気持ちに注意が向き、感覚が鋭敏となります。すると、より強く不快な気持ちを覚えるようになります。それを更にコントロールしようとすることで、ますます嫌な気持ちに視野狭窄されてしまいます。このような「注意と感覚の悪循環」を、「精神交互作用」と呼んでいます(森田療法ページ参照)。嫌な気持ちを打ち消そうとしてあがいた結果、かえって嫌な気持ちが強くなってしまうのです。このような構えを森田療法では「はからい」と呼びます。この漫画で「Xがパフェを食べている」ことを想像することで、嫌な気持ちを消そうとするAの姿勢は「はからい」に他なりません。

 では、どうすればいいか。森田正馬先生のお言葉「腹が立ったら3日待て」がとても参考になります。30話で取り上げた内容ですけれども、私のお気に入りのお言葉ですのでもう一度引用します。

 ともかく、普通の教訓では、腹は立てないようにするとか、立った腹は、これを抑えて、堪忍するようにするとかいうけれども、私のやり方は簡単である。そんな困難もしくは不可能の努力を要しない。一口に言えば癪にさわる、さわるままに、「うぬ!どうしてやろうか」とか、ハラハラ、ジリジリと考えればよい。私の郷里の土佐の武士道の戒めに、「男が腹を立てば、三日考えて、しかるのち断行せよ」という事がある。それでよい。そうすると、初めのうちは頭が、ガンガンして、思慮がまとまらないが、追おいとこのようにすれば、相手はどう、自分はどうという事がわかってきて、それが二時間も半日も続くのは、容易な腹立ちではない。私のいわゆる「純なる心」の修養ができれば、「心は万境に随(したが)って転じ」で、決して長く続くものではない。もし続けば、それは当然、続かなければならぬ重大事件であるのである。(白揚社「森田正馬全集 第五巻」 p.275より引用)

 すなわち、Xから言われたことについて、とにかくAは不快のままジリジリと過ごすのが一番合理的ということです。何とかして嫌な気分を収めなさいとは一言も言っていないところがポイントです。「感情はそのまま放任すれば、ひと登りしてひと降りしてそのまま消失する」ものです(「感情の法則 第1」2728話)。これこそが、最もシンプルな方法と感じます。

 

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