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16. 夕立 ~パニック症の心理教育(森田療法の観点から)~

[2018.08.29]

 この季節、ここ栃木県は夕立が発生しやすく、夕方になると雷鳴を聴くことがよくあります。栃木県は雷の多い地域として有名で、殊に県庁所在地の宇都宮市は「雷都」とも呼ばれているくらいです。

 さて、今回は「パニック症(パニック障害)」の心理教育についてのお話です。お話の途中で、冒頭で登場した「夕立」も出てきます。

 パニック症は、「パニック発作」が頻回に出現し、「また同じような発作が起きるのではないか」などという不安が高まる疾患です。まず「パニック発作」とは、動悸、発汗、息苦しさ、胸痛、めまい感などの自律神経系を介した身体症状が急激に出現するものです。「今にも死んでしまうのではないか」という死の恐怖を抱くこともあります。この「パニック発作」は本人にとっては強烈に苦しく辛いもので、自ら救急車を呼んで救急病院を受診することもよくあります。しかし検査を受けても異常なしと言われます。ただ、この症状を繰り返すと、「再び同じ発作が出てしまうのではないか」「外出先でこの発作が出て死んでしまうのではないか」「人前で同じ発作が出たらみっともない」などの不安を抱くようになります。この不安のため次第に発作が出そうな場面を避けてしまい、行動範囲が狭くなり、結果的に日常生活に支障をきたすことになります。

 パニック症は薬物療法が有効なことが多く、たいていのケースではお薬での治療を行ないます。ただそれだけでなく、きちんと疾患の特徴や対処法を理解していただく「心理教育」も大切です。

 先ほど説明した通り、この「パニック発作」は、非常に苦痛なもので、「今にも死んでしまう!」という恐怖感を伴うものです。しかしこの発作で死に至ることは絶対にありません。また、この発作の特徴は、数分以内にピークに達し、その後自然に治まることです。これはアメリカ精神医学会出版のDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル 第5版)にきちんと書いてあります。森田正馬先生も同じようなことをおっしゃっています。「感情(症状)はそのまま放任し、またはその自然発動のままに従えば、その経過は山形の曲線をなし、ひと昇りしひと降りして、ついに消失するものである」(感情の法則・第1)。したがって、パニック発作が万一出現した場合は、とても辛いのですが、症状が過ぎ去るのをじっと待つのが得策ということです。

 この発作のやり過ごし方について、「『夕立』の際の過ごし方」の例えを用いて心理教育をすることがあります。これは東京慈恵会医科大学附属第三病院院長で、日本森田療法学会理事長の中村敬先生がよく用いていらっしゃる手法です。我々は外出中「夕立」に遭遇した場合、雨宿りをして、雨が上がるのをじっと待つことと思います。それと同じように、パニック発作(=夕立)が襲ってきたら、それに戦うことなく、発作が治まるまでじっと待ちましょう、ということです。

 「パニック症」は、発作そのものも辛いのですが、むしろ問題になるのは、日常生活への支障です。これは「発作が再び起きるのではないか」などという不安のために、生活上必要な行動から回避してしまうことから生じます。また、身体に少しでも異変を感じると「今すぐ死んでしまうのでは」と感じ、すぐさま救急車を呼んでしまうケースも多くあります。このように不安から逃げよう、症状をどうにかしようという「はからい」をすると、かえって症状へのとらわれが増すことになります。次第に症状のことばかりしか考えられなくなり、結果ますます不安が増強されてしまうという悪循環となります。これが精神交互作用です。

このようなこころのからくりを理解していただいたうえで、ある程度不安と付き合いつつ、これまで症状のために犠牲にしてきた行動に少しでも踏み入れるように指導します。万一の発作時には先述の「夕立の例え」でやり過ごします。そして、患者さんの行動範囲が広がるよう治療者は援助していきます。

 

【参考文献】

・長谷川洋三:森田式精神健康法. 三笠書房, 2005
・北西憲二編:森田療法で読むパニック障害 その理解と治し方. 白揚社, 2003
・中村敬:症状別にみる森田療法の治療法. メンタルニュースN0.32 メンタルヘルス岡本記念財団編集・発行, 2014
・日本精神神経学会 日本語版用語監修 高橋三郎 大野裕 監訳:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院, 2014

 

【おまけ】


夕立の後に出現した虹です(しかもダブルです!)。

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