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17. 身体症状症と森田療法

[2018.09.05]

 8月31日~9月2日の3日間、東京都千代田区の法政大学市ヶ谷キャンパスにて、第36回日本森田療法学会が開催されました。この学会に、400名近くの方が参加されたそうです。一般演題数も約70で、医療関係者だけでなく、心理カウンセラー、教育関係者、福祉職、神経症当事者など様々な分野の方が発表されました。私も9月1日の一般演題で発表いたしました。フロアの先生から好意的なコメントを頂くことができ、とても励みになりました。

 今回の学会では、女性の臨床心理士の先生が会長をされたこともあり、「女性」をテーマにした発表、講演が多くありました。プログラム・抄録集も女性の姿が描かれたやわらかいデザインです。

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 さて、今回の学会で私がもっとも感銘を受けたのは、身体症状症に対する森田療法についてのご講演でした。このページでは、拝聴したご講演の内容を盛り込みつつ、身体症状症に対する森田療法的な治療戦略についてまとめます(注!:かなり私見が入っております)

 身体症状症とは、あらゆる検査で異常所見がないのにかかわらず、苦痛な身体症状が長期間(通常半年以上)にわたり持続し、その結果日常生活に支障をきたす疾患です。原因不明の痛みが持続する「疼痛性障害」も身体症状症に含まれます。

 このような疾患の場合、薬物療法がある程度役に立つ場合があります。殊に症状があまりにも重く、日常生活に著しく支障をきたすケースには、まずはお薬の治療を優先すべきと私は考えます。

 ただし、お薬には限界があります。薬物療法のみでこれらの身体症状を速やかにゼロにすることは、残念ながら困難です。ただこの疾患では患者さんがあまりにも苦痛を覚え、執拗に症状の訴えをされ、今すぐ楽になる薬を出してほしいと要求される傾向にあります。それに対し治療者は良かれと思い安易に薬剤の追加を繰り返すと、次第に薬の量が増えてしまい、しまいには「薬漬け」の状態になってしまいます。しかも、身体症状だけをターゲットにして薬を加えていく治療では、患者さんがかえって症状ばかりに注意が向いてしまう恐れがあります。すると患者さんは些細な身体の反応に過敏になり、その結果かえって症状が強く感じられてしまう、だからこそますます症状しか考えられなくなる・・・という悪循環が形成されてしまいます(精神交互作用)

 「心身症治療と森田療法」というタイトルでご講演をされた先生によると、急に身体症状を取り除いてしまうと、精神病反応や極度の抑うつ状態に至るなど危険な反応が起こることがあるとのことです。むしろ、身体症状には意味がある(必要悪な)ものだとその先生は話されていました。それを拝聴し、「なるほど!」と私は感じました。

 患者さんが訴える身体症状の裏には、「日常生活での困りごと」が隠れていることが良くあります。そのSOS信号として、身体症状が出現することもあるのです。身体症状は「コマッタ~!タスケテ~!」などというメッセージともいえましょう。

 治療者は、患者さんの日常生活の状況を詳しく聴取し、患者さんの「困りごと」の把握に努めます。もちろん、患者さんの「困りごと」の辛さを共感していく姿勢が大切でしょう。そして、症状と戦ったり、症状から逃げたりすると精神交互作用によりますます症状にとらわれる悪循環を指摘し、むしろしばらくは症状と付き合っていくことを提案します。そのうえ、これまで症状のためにできなかったこと、避けてきたことに少しずつでも手をつけていくよう(あまりにも症状が辛い場合には、せめて今できていることを止めないで続けるよう)推奨していきます。すなわち症状を持ちながらも健康人に近い生活を送っていくということです。シンポジウムで慢性疼痛について発表された先生のお言葉を引用すると、「痛みから逃れること」から「痛みがあっても今の自分にあった過ごし方を見出すこと」に価値を置き換える支援をしていく、ということです。

 そして、身体症状の有無にかかわらず、自分らしい生活ができるようになることがこの疾患の治療目標だと私は考えております。

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