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197. 症状不問

[2022.01.28]

 森田療法での技法の一つに「症状不問」というものがあります。「不問療法」という言葉も用います。これは、患者さんが訴える症状については聞くけれども、それを治すべき対象として大きく取り上げることはしない、という構えです。
 神経症(不安症、強迫症、身体症状症など)の患者さんは、とにかく「症状を無くしたい!」という考えが強く、治療者に対し症状を延々と訴えることがよくあります。それに対し治療者が患者さんの症状にとらわれ、それをどうにかしようと症状を軽減させるための助言をしたり、中には投薬や注射をしたりすることもあります。それがプラスに働くこともありますけれども、その一方、患者さんは症状にますます視野狭窄してしまい、より症状が強く感じられてしまう恐れがあります。その結果、更に症状を強く治療者に訴えるという事態にもなり、だからこそ治療者がさらに症状を除去せんと投薬や注射を重ねる・・・という悪循環が生まれてしまいます(「精神交互作用」。森田療法のページ参照)。これこそ、「症状を取ろう取ろうとすると徒労(トロウ)に終わる」(千歳病院・芦沢健先生1))です。それに対し森田療法では、症状の良し悪しや程度については耳を傾けるけれども、治療の対象として大きく関与することはせず、「そんな中でも、今できることをやっていきましょう」などと指導します。それにより、症状を取ろう取ろうとする構えから日常生活での行動へと目を向けさせるアプローチをとるのです。これが「症状不問」の姿勢です。一見すると冷たい指導法のように思えるかもしれないですけれども、症状へのとらわれから脱し、生活を立て直しするのには有効な技法といえます。
 このように「症状不問」は森田療法において極めて重要な要素と考えます。しかし最近では、「昨今の森田療法では『不問』が崩れてしまっているのではないか」と指摘する意見をよく伺うようになりました。確かに、最近の森田療法関連の学会やセミナーでは「不問」の言葉はあまり聞かれなくなりました(むしろ「『問う』ことが大切」という言葉をよく聞くようになりました)。これでは、森田正馬先生が創始された森田療法の伝統が失われてしまうのではと私は危惧しています。私はこれからも森田療法の良き伝統である「不問」を守っていき、実臨床で活用していきたいと思っております。実際、「症状不問」の技法を用い、治療が進展したケースを当院では多く経験していますから。

(注)「症状不問」の技法は、森田療法で効果をあげることが期待できる疾患・神経症圏(不安症、強迫症、身体症状症など)で良く用いられます。一方で、うつ病、双極性障害、統合失調症などの極期で安易に「症状不問」を用いるのは不適切です。その疾患に準じた治療(薬物療法、休養など)が必要です。ただし、薬物療法を長期に使用しても症状が遷延しているうつ病や体感幻覚症(セネストパチー)などの患者さんに対し、「症状不問」などの森田療法的な考え方が役に立つ場合もあります。

【引用文献】
1) 芦沢健:依存症治療における森田療法の効用~治療者にとっても患者にとっても,とっても役に立つかもしれない.日本アルコール関連問題学会,18:2-5,2016.

 

 

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