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247. 徳川家康の神経質性格

[2023.01.01]

 1月8日、大河ドラマ「どうする家康」がスタートします。主役の徳川家康を演じるのは、松本潤さん(実は、松本さんは昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の最終回に「徳川家康」役として少しだけ登場しました)。
 私は大河ドラマの中でも特に戦国時代の作品を好んで観ています。どの作品でも必ず徳川家康が登場します。これまで私が観てきた大河ドラマで家康をどの俳優さんが演じているか調べてみました。「春日局」(1989年):丹波哲郎さん、「信長KING OF ZIPANGU」(1992年):郷ひろみさん、「葵 徳川三代」(2000年):津川雅彦さん、「功名が辻」(2006年):西田敏行さん、「天地人」(2009年):松方弘樹さん、「江~姫たちの戦国」(2011年):北大路欣也さん、「軍師官兵衛」(2014年):寺尾聰さん、「真田丸」(2016年):内野聖陽さん。作品によって様々な家康の姿があり、比較してみるのも面白いものです。果たして、今回の「どうする家康」では松本潤さんがどのような家康を演じるのか、非常に楽しみです。

 さて、徳川家康は神経質性格を持った人物だったといわれます。神経質性格とは、小心で心配性という弱力性と負けず嫌いで完全欲が強く執着性が強いという強力性の二面性を持った性格のことを言います。

大河ドラマでも、神経質な面を見せる家康を時折目撃します。特に「真田丸」で内野聖陽さんが演じた家康は典型的な神経質だったような気がします。小心者でおどおどする場面があった一方、関ヶ原の戦いのあと、真田昌幸・信繁(幸村)父子をいつまでも許さない執念深い面も見せていました。真田丸の脚本を担当した三谷幸喜さんは、もしかすると家康の神経質性格についてきちんと把握されていたのではと勝手ながら想像しておりました。

 ここで、家康の神経質性格に着目して彼の行動や言動について述べられた1冊の書籍を紹介します。精神科医・南條幸弘先生著「家康 その一言~精神科医がその心の軌跡を辿る~」1)です。
こちらの書籍から、家康の神経質性格についてのエピソードを抜粋いたします。

・家康は小心者であり、戦の時は貧乏ゆすりや歯ぎしりをしていた。歳を取っても爪を噛む癖もあった。
・家康が信長や秀吉と決定的に違っていたのは、独断専行ではなく、家臣たちの意見をよく聞いた上で決断を下していた点だ。家康はたわいのない諫言にも聞く耳を持っており、「主君への諫言は一番槍より勝る」とも述べて諫言を推奨していた。
・家康は「殿は口数が少なく何をお考えになっているかわからない」と家臣たちからも言われていた。信長や秀吉に比べるとわかりにくい面もある。弱気に見え、強気にも見えるが、実は両者が表裏一体になったものだ。
・家康はしばしば胃腸の調子が悪く、それを寸白(サナダ虫による条虫症)と自己診断し、侍医の反対にもかかわらず、自分で調合した薬をたびたび飲んでいた。ただ、実際には条虫症ではなく、胃腸神経症ではなかったか。
・家康は倹約家だった。家康は岡崎にいた時代、質素に麦飯を食べていた。近臣が気を利かせて茶碗に白米を入れ、上の少しだけ麦を載せて出したところ、家康の機嫌を損ね「自分の食費も節約して軍費に充てようとしているのに私の心を知らないのか」と叱られた、など。

 家康の神経質性格がもっともよく表れたエピソードとして、「しかみ像」の話が有名です。家康は武田信玄の策略にはまり、「三方原の戦い」で大敗を喫しました。その際家康は命からがら浜松城に逃げ帰りました(馬上での脱糞の出来事はあまりにも有名です)。その苦い経験をもとに描かせた絵画が「しかみ像」です。もちろん、このエピソードは南條先生のご著書にも詳述されています。以下、その部分を抜粋いたします。

 家康は三方原の戦いに敗れて城に逃げ帰った時の情けない自分の姿を絵に描かせた。これが「しかみ像」と呼ばれる絵画であり、現在は徳川美術館の所蔵となっている。家康はしかみ像を座右に置き、慢心の戒めにしたと伝えられている。(中略)神経質人間は過去の失敗に非常にこだわる。一見マイナス思考のように思われるかもしれないが、これは決して悪いことではない。(中略)
家康の場合、失敗を教訓として、その後は大きな失策をせず、戦いでは敵将の調略を行うなど下準備をしっかりして、無謀な戦いは避けた。たとえ勝ち戦であっても必ず「買って兜の緒を締めよ」と家臣たちに指示し、いつも慎重だった。だから着実に勝利し、たとえ負けるにしても被害を最小限に留めた。その結果、ライバルたちが自滅していく中で、着々とポイントを挙げて自然と天下が転がり込んできたという見方もできよう。

 南條先生はご講演2)において、「徳川家康は織田信長や豊臣秀吉のような大天才ではなく、神経質性格を最大限に生かして努力を重ね、戦のない世の中を実現した人物であると考えられる」と述べておられました。
 私も自称「神経質人間」の一人として、家康に大いにあやかりたいと思っております。

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

【引用文献】
1) 南條幸弘:しずおかの文化新書19 家康 その一言~精神科医がその心の軌跡を辿る~.公益財団法人静岡県文化財団,静岡,2015.
2) 南條幸弘先生講演会「精神科医が診る 徳川家康の心 神経質性格を活かし尽くした人生」(2015/7/5 於:グランシップ(静岡市))レジュメ

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