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41. 心の健康セミナーin広島 後篇

[2019.02.22]

前回の続きです)

 いよいよすばるクリニックの伊丹仁朗先生のご講演です。ここでは、特に印象に残った部分をピックアップします。

 まずは、「生きがい療法」の成り立ちから話題が始まりました。数十年前、伊丹先生は直腸がんの40代女性を診察されました。その女性は「死ぬのが怖くて、考えるのをやめようと思うけど、ますます死んだらどうしようという不安に襲われてしまう」という死の恐怖をさかんに訴えていました。伊丹先生は、その患者の不安・恐怖へのとらわれが強迫性障害のものに類似しているのではないか、その患者に対し森田療法の理論を応用してみてはどうか、というアイデアが浮かばれたそうです。そして、「不安はどうしようもないもの(コントロール不能なもの)。ただ、せめて一日必要な主婦の仕事はしていきましょう。実行したことを日記に書いてみましょう」と指導されました。数か月後、その患者は、不安や恐怖へのとらわれから抜け出したとのことです。

 がん治療に心理療法を加えることで、がん生存率が高まるとする研究があります。最近では「精神腫瘍学」という学問も登場しています。伊丹先生は「精神腫瘍学」に森田療法の理論を応用され、「生きがい療法」の開発に取り組まれました。

 下記に「生きがい療法5つの指針」を示します(講演会のレジュメを抜粋したものです)。

1.自分が自分の主治医のつもりで病気や人生の困難に対処する(セルフヘルプ、自覚療法)

2.今日一日の生きる目標に取り組む(目的本位、努力即幸福)

3.人のためになることを実行する(己の性を尽くす)

4.不安・死の恐怖はそのままに、今出来る最善を尽くす(不安常住、あるがまま、思想の矛盾の打破)

5.死を自然現象として理解し、今出来る建設的準備をしておく(事実唯真、物事本位)

 「生きがい療法」での有名なエピソードとして、モンブラン登山があります。がん患者のメンバーたちが標高4807mのモンブラン登山に挑んだもので、当時は無謀な試みではないかとも言われたそうです。しかし実際には数名は登頂され、そして全員無事に帰還されたそうです。そしてメンバーの一部の方は現在もご健在とのことです。

 それから、伊丹先生は、現在のがん治療の問題点を挙げられました。現在のがん治療は「キセル型」であるとし、がんの初期治療と終末医療の「隙間」である再発予防の対策は全く行われていないことや、有用性のある温熱療法や丸山ワクチンがほんの一部の医療機関しか行なわれていないことなどを述べられました。

 

 締めくくりは質疑応答の時間です。さまざまな質問が出されましたが、その中で最も印象的なものを挙げておきます。「生きがいが見つからない場合には、どうすればいいか?」という質問に対し、伊丹先生は「気持ちはどうであれ、目の前のことを行なうこと」とおっしゃっていました。生きがいを持つには、特別なテクニックは必要なく、目の前のことを地道にこなすことなのですね。森田療法の基礎である「目的本位」の重要性を改めて学びました。誠にありがとうございました。

 

★「生きがい療法」について詳しくお知りになりたい方は、生きがい療法ユニオンのホームページや、下記書籍をご参照ください。

 

【引用文献】

・昇幹夫著「笑って長生き 笑いと長寿の健康科学」大月書店

・伊丹仁朗著「絶対あきらめないガン治療・30の可能性」三五館

 

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