232. 「地球に生まれてよかった」!?
【おことわり】この記事で紹介する動画には、数多くの飲酒シーンがあり、飲酒欲求が高まる恐れのある表現もあります。しかも、この動画に登場する人物は医学的には危険な飲酒の仕方をしています。このような事情を鑑み、動画へのリンクは張らないことにします。
最近YouTubeで「33歳酒飲み独身女あやかのぼっち宿泊記」という動画を見つけました。会社員で独身のあやかさん(現在34歳)が、主に大阪市内のホテルに宿泊し、職場の人間関係などについて愚痴りながら飲酒をするという内容です。独特なセリフの言い回しが面白く、動画のテンポも良く、一度観始めるとつい最後まで観続けてしまいます。実際に、チャンネル登録数が15万を超えており、動画の中には視聴回数が100万を超えたものもあり、かなりの人気のようです。この動画の決まり文句は「地球に生まれてよかった」。酒を飲んだ時に必ずと言ってもよいくらいにこのセリフが出てきます。
ところで、この動画を観てどうしても気になってしまうのは、あやかさんの飲みっぷりです。あまりにも飲酒量が多いことから、健康上の問題が生じないだろうか?とアルコール医療に携わる私はつい心配になってしまいます。
そこで、あやかさんの飲酒量について、「ドリンク」という単位を用い計算してみることにしました。まず、1ドリンクは、純アルコール10gに相当します。厚生労働省が推奨する、「節度ある適度な飲酒」は2ドリンクまでとされています1)。2ドリンクは、日本酒1合、ウイスキーダブル1杯、ビール(5%)500ml、缶チューハイ(7%)350mlに相当します。ただしこれは成人男性の目安であり、女性、65歳以上の方、高血圧や糖尿病など生活習慣病を抱えた方は「1ドリンク」が目安と言われます3)。よって、あやかさんの「節度ある適度な飲酒」の量は、1ドリンク(ビール250ml程度)となります。
純アルコール量は以下のように計算できます。
純アルコール量(g)= 酒の量(ml) × アルコール度数 × 0.8(比重)
例えば、500mlの缶ビール(5%)の場合、純アルコール量は500×0.05×0.8=20gであり、ドリンクの単位に換算すると、ちょうど2ドリンクとなります。
それでは、あやかさんの最新の動画「女社会の闇、お見せします。職場での派閥争いに疲れ、1人ビールフェスで呑みまくる34歳」(2022/09/24公開)を観て、あやかさんが何ドリンク飲酒したか検証します。まず、あやかさんが飲んだアルコール飲料をピックアップします(銘柄や商品名は割愛しました。?がついているのは動画から推定した量です)。
【場面1:ビールフェスにて】
・ビール1 500ml? 5.5%
・ビール2 500ml? 4.8%
・ビール3 500ml? 5.5%
(注:アルコール度数は動画内の商品案内に明記)
【場面2:居酒屋にて】
・ハイボール 中ジョッキ 300ml? 8%?
・日本酒 1合? 15%?
(注:ハイボールについてはこちらのサイト2)を参照した)
【場面3:ホテル客室にて】
・缶ビール 350ml 5%
・缶ハイボール 500ml 9%
純アルコール量及びドリンクを計算した結果は下記のとおりです。
なんと、この動画内であやかさんは15.4ドリンクも飲んでいることがわかりました。
女性の場合、1日に2ドリンク飲酒すると、「生活習慣病の危険を高める」とされています。更には1日6ドリンクを超えて飲む人を「多量飲酒者」と呼んでおり、数年のうちに肝硬変やアルコール依存症(使用障害)となる可能性が高いといわれます3)。あやかさんの場合、「多量飲酒者」の目安を軽く超えてしまっています。
せっかくなので、他の2つの動画でも検証してみます(動画で出てくるアルコール飲料の量は、容器をネットで検索するなどしてできる限り忠実に近づけるよう努めましたが、必ずしも正確なものではありません。プラスチックコップは正確な容量がわからなかったため、200mlと推定しました)。
いずれも10ドリンクを超えていました。このままの飲み方を続けてしまうと、アルコールの健康障害が生じうる恐れがあります。具体的には、こちらのページの「様々な飲酒問題」をご覧ください。
動画内であやかさんは、職場などのストレスが多いため飲酒量が増えると述べています。この飲み方は大変危険です。安定剤代わりの飲酒を続けることで、いつしかコントロールの利かない飲み方となり、アルコール依存症に発展することが十分に懸念されます。現在でもあやかさんは、これだけの量を飲んでいても、酔いつぶれるシーンはあまり見かけません。おそらくはすでに耐性ができてしまっているのではと感じてしまいます。耐性は、アルコール依存症の診断基準の一つになっています。
僭越ではございますが、あやかさんには、自らの健康のためにもぜひとも飲酒について見直していただき、ストレス発散は、スポーツで汗を流すなど健康的な方法にしていただくことを、医師である私は忠告しておきます。
【引用サイト】
1) 厚生労働省HPよりhttps://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5f.html
2) https://stabucky.com/wp/archives/4056
3) ふくしま心のケアセンター 資料よりhttps://kokoro-fukushima.org/wp/wp-content/uploads/2019/06/pamph_insyu_meyasu.pdf