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28. 感情の法則(後篇)

[2018.11.23]

 まずは森田正馬先生の「感情の法則」をもう一度示します。

1.感情は、そのまま放任し、またはその自然発動のままに従えば、その経過は山形の曲線をなし、ひと昇りしひと降りして、ついに消失するものである。

2.感情はその衝動を満足すれば、急に静まり消失するものである。

3.感情は同一の感覚に慣れるに従って、にぶくなり不感となるものである。

4.感情は、その刺激が継続して起こる時と、注意をこれに集中する時に、ますます強くなるものである。

5.感情は、新しい経験によってこれを体得し、その反復によって、ますます養成される。

 その中で私が日常臨床でよく使うものは、1と4です。

(余談ですが、法則1の「山形の曲線」とは、山の形をなす曲線という意味であり、さくらんぼやラ・フランスの名産地とは全く関係ありませんので、念のため。)

 

【パニック症への応用】

パニック発作は、とても辛く、「今にも死んでしまうのでは」という恐怖感を伴うものです。しかし、発作がピークに達するのはせいぜい数分です。その間、あがくことなくそのまま放任していれば、自然に発作は消失します【法則1】。私は診療で「夕立」「にわか雨」の例をよく用いています。辛いからと救急車を呼ぶなどの「はからい」をしてしまうと、ますます症状へのとらわれが強くなります【法則4】。詳細はブログ16話をご覧ください。

 

【うつ病への応用】

うつ病の回復期では、憂うつ気分から解放される時期もあれば、再び憂うつな気分に戻る時期もあります(精神科医はよく「三寒四温」の例を出します)。憂うつ気分に逆戻りしてしまうと、「病気が再発したのでは、もう治らないのでは」と不安になるものです。そこで私は【法則1】を出し、今は辛いけど気持ちはそのままにしていれば、いつかは嫌な気持ちから抜け出せることを説明しています。逆に、この嫌な気持ちをなくそうとあがいたり、紛らわし行為をしたりしてしまうと、疲弊してますます不快な気持ちが強くなることも付け加えます【法則4】。

 

【強迫観念への応用】

強迫観念は辛いです。しかし、その観念を消そうとして、声出しなどの紛らわし行為をすることで、より観念へ注意が向き、ますます嫌な観念にとらわれてしまいます【法則4】。逆に観念はそのままにして、とりあえず目の前の必要なことに手をつけていくと、自然に不快な観念は流れていきます【法則1】。

 当院は保険診療の範囲内で精神療法を施行する診療所であり、診察時間はどうしても限定されてしまいます。しかし、その限られた時間でも、森田先生の「感情の法則」が、患者さんへの心理教育におおいに役に立ちます。

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