35. 笑いと健康 中篇
笑いと健康について有名な研究があります。
これは、筑波大学名誉教授の村上和雄先生らが吉本興業と組んで行なった研究です。被検者は糖尿病患者19名。まず1日目は、被検者が500キロカロリーの寿司を食べて、それから大学教官による糖尿病の講義を受講します。眠くなるような実につまらない内容です。その後血糖を測ったところ、平均で123mg/dl上昇していました。つづいて2日目。同じく500キロカロリーの寿司を食べてから、大阪の有名漫才師による講演を聞きました。大笑いするような内容だったそうです。その後の血糖上昇は、なんと77mg/dlにとどまりました。笑いにより血糖上昇が抑えられたという結果となったのです。村上先生の考察によりますと、笑いによって、身体に良い影響を与える遺伝子がONになったためではないか、ということです。なお、笑いのビデオを診療で用いている糖尿病専門医療機関もあり、治療効果を上げているとのことです。
また、笑いは免疫力にも良い効果をもたらすと言われます。ヒトの免疫をつかさどる細胞の一つに、NK(ナチュラル・キラー)細胞があります(余談ですが、これを発見した一人は、日本の仙道富士郎先生で、私の母校・山形大学の免疫学教授、学長を務められました。私は学生時代、仙道先生の講義を拝聴しておりました。とても分かりやすい講義だったことを覚えております)。NK細胞は、ヒトにとって有害な、がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃する役割を果たします。実は笑いにより、このNK細胞が活性化することが分かっています。すなわち、笑うことでがんになりにくく、万一がんになったとしても予後が良くなる可能性があるということです。
昨年、大阪国際がんセンターは、笑いによりがんの免疫力が向上したという研究結果を発表しました。これはがん患者を2群に分け、一方の群には漫才や落語を鑑賞させ、その後採血やアンケートを施行し、鑑賞させない群との比較を行なったというものです。結果、鑑賞させた群ではNK細胞が増加傾向であり、また緊張、抑うつ、疲労、そして疼痛についても改善が見られたそうです。
あと、がんに対する心理・生活療法に「生きがい療法」があります。これは岡山県倉敷市で「すばるクリニック」を開業されている伊丹仁朗先生が開発されたもので、森田療法がベースとなっています。その療法には笑いも取り入れられています。詳しくは次回に譲ります。
【引用文献】
・昇幹夫著「笑って長生き 笑いと長寿の健康科学」大月書店
・伊丹仁朗著「絶対あきらめないガン治療・30の可能性」三五館
・朝日新聞デジタル2018年5月29日記事https://www.asahi.com/articles/ASL5Y52NRL5YPTIL01P.html