351. 5年ぶりに森田正馬先生の生家を訪ねる
【350話(第41回日本森田療法学会・高知大会)の続きの記事です】
8日のお昼前、無事私は一般演題での発表を終え、すぐさま「エクスカーション」に参加しました。学会会場の前に停車しているバスに乗り込みました。このツアーのメインは、森田正馬先生の生家訪問とお墓参りです。20人程度の参加者を乗せたバスは会場を出発、まずは高知城や、森田先生の母校である高知追手前高校付近を通過し、森田先生の生家のある香南市(こうなんし)に向かいました。
香南市香我美町にある宴会場・一寿司会館にて昼食をとった後、いよいよ生家訪問です。森田正馬先生の生家への訪問は、2018年7月(10話)、2019年4月(52話)以来ですので、実に5年半ぶりです。
(このページに掲載した写真の一部はクリックで拡大できます)
この生家が、老朽化や耐震性の問題から解体されるという計画が浮上してから、地元の有志による「森田正馬生家保存を願う会」の活動や日本森田療法学会などの働きかけにより保存の方向となったことは、10話や52話で記した通りです。この数年で生家をめぐる新たな動きがありました。これまで香南市長を務めていた清藤真司氏が2021年、官製談合事件で起訴された建設会社元社長から商品券を受け取ったことを認め、市長を辞職2)。翌年に浜田豪太新市長が誕生すると、生家の修復・保存に向けた前向きな方針が示されました。「森田正馬生家保存を願う会」は「森田正馬生家保存会」に改称し、2023年6月から修復・保存の募金活動を開始しました。約1年間で約1200万円集まり、全額香南市に指定寄付をしたそうです。2024年、森田正馬先生の生家は「旧森田家住宅」として、国の登録有形文化財として登録されました。香南市は2024年度予算に約4000万円を計上し、主屋の屋根の葺き替えと耐震補強工事を開始しました1)。
生家では、森田正馬生家保存会の代表の方から生家にまつわる詳しい解説をうかがうことができました。ちょうど生家は修復工事中で、足場が組まれていました。本来なら、エクスカーション当日の12月8日に工事が完了する予定だったそうですが、いわゆる「迷走台風」と言われた台風10号の影響で工事が遅延してしまい、間に合わなかったとのことでした。
代表の方のご案内により、中に入りました。上の写真の左の部分は土塀になっていますが、右の部分はブロック塀になっています。昭和21年の南海大地震で土塀が倒壊してしまい、応急処置としてブロック塀を作ったという経緯があるそうです。このブロック塀の部分は、文化財には指定されていません。今回文化財に指定されたのは、主屋のほか、土蔵、表門、塀重門、脇門、土塀の6件で、すべてを順次修復し、生家全体を一般公開できるために、更に約7000万円が必要との試算案が出たとのこと。ただしブロック塀部分を修復するための工事費、そして駐車場用地確保などの経費はこの7000万には含まれないよう1)であり、森田正馬生家保存会は募金活動を続けていくとのことでした(関連記事はページ下部にリンクを張っています)。
内部も拝見することができました。工事中のため床にはビニールシートが敷いてありました。
土蔵。「水切瓦」は高知県独自の工法で、貴重なものと言われています。
今回の見学を通じて、この生家が建築学的のみならず、森田療法の「聖地」として極めて貴重なものであることを再確認することができました。
生家から徒歩で、森田先生のお墓へ向かいました。
途中で、「金剛寺」を通りました。森田先生が幼少期に、このお寺の地獄絵を見て、死の恐怖に襲われたエピソードは有名で、これが森田療法成立のルーツにもなったといわれます。なお、この地獄絵を描いたのは、江戸時代に土佐(高知県)で活躍した絵師金蔵、通称・絵金ではないかという説もあるそうです(絵金については後述)。
森田先生のお墓です。その裏には、正一郎さん(長男)、久亥さん(妻)、亀さん(母)、正文さん(父)、そして徳弥さん(弟)のお墓が並びます。徳弥さんは日露戦争で戦死された方で、そのお墓は森田先生が建てられたものとのこと。
私は、森田先生の墓前で、先ほど学会で発表をしたことを報告し、あらためて森田療法の発展に貢献していきたいことを誓ったのでした。
森田正馬先生のお墓と私。
【エクスカーション・その後】森田先生の生家・お墓をあとにして、バスは香南市赤岡町の「絵金蔵」へ。江戸時代末期に活躍した絵師・金蔵、略して「絵金」の絵画を鑑賞しました。ややグロテスクな作風で、小さいお子様が観るとトラウマになってしまうだろうな・・・と思いながら拝見しました。ツアーのスケジュールがタイトであることから、絵金の絵画をゆっくり鑑賞できなかったのが心残りでした。
※内部は写真撮影NGであり、写真はありません。公式HPのリンクを張っておきます。
https://www.ekingura.com/
【引用文献、サイト】
1)森田正馬生家保存会:森田正馬生家保存のための寄付金募集継続 趣意書.2024年9月
2) 高知・香南市長が辞職表明「道義的責任」起訴の業者から商品券 朝日新聞デジタル 2021年12月7日
https://www.asahi.com/articles/ASPD75CHPPD7PTLC010.html
「森田正馬生家保存会」公式サイト
http://morita-shoma.com/
ただし、このサイトには生家の修復保存の寄付についての詳細な記事がないようです。その代わりに、「高良興生院・森田療法関連資料保存会」のサイトに寄付についての記事がありますのでリンクを張っておきます。なお、寄付金は香南市に指定寄付(用途を指定した寄付)され、寄付をすると香南市から「寄付金受領証明書」が送られてきます。これは、寄付金控除の証明などに利用できます。
https://hozonkai.net/news/morita_hozon/