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どくとるあるぱかのブログ

229. 睡眠薬ゾルピデムのリスク(2022.09.09更新)

 ゾルピデム(商品名「マイスリー」)は、臨床の場においてよく処方される睡眠薬です。最近では、精神科だけでなく内科などでもよく処方されているのを見かけます。従来の睡眠薬であるベンゾジアゼピン系(37話など)は、依存性や筋弛緩作用による転倒・骨折などのリスクが問題とされています。ゾルピデムは、ベンゾジアゼピン系と同様に脳内にあるベンゾジアゼピン受容体に作用するものの、ベンゾジアゼピン系の骨格を持っていないことから、「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」に分類されます。ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べ、筋弛緩作用、抗不安作用が弱いとされていることから、「ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて依存性や転倒などのリスクが少なく、安全」などと謳われています。しかし、実際にはゾルピデムにも依存性、転倒・骨折のリスクがあるとされており、更にはまれながらも睡眠時の異常行動が起こることがあると報告されています。
 今回は、ゾルピデムのリスクについてお話いたします。

・依存性
 ゾルピデムは、従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べ、乱用や依存性のリスクが少ないと喧伝されています。しかしながら実際には、ゾルピデムの乱用や依存について数多くの報告があります。一つのケースレポート1)を紹介します。

 32歳男性。静止不能、イライラ感、筋肉のけいれん、発汗、動悸、不眠等で精神科クリニックを受診。1日400mg服用していたゾルピデムを急激に中止したことによる離脱症状だった。ゾルピデムの乱用に至った経緯は次のとおりである。かつてヘロインに依存した時期があり、自助グループに入り6年間断薬をしていた。チックと不安感、不眠の治療のため、医師からゾルピデム10mgが処方された。その患者がゾルピデムを服用すると、ヘロインを使用したのと同じような多幸感を覚えた。それから多幸感を味わうためにゾルピデムの使用量が徐々に増えていき、1日1100-1400mgにまで達してしまった。2000mg服用していた時期にけいれんが生じ入院し、一度はゾルピデムを絶った。しかし1か月後には再びゾルピデムを服用し、再び量が増えていった。

 他にも、多幸感を味わうためにゾルピデムを乱用したというケースが多く報告されており、依存形成、離脱症状、耐性など、薬物依存と同様の状態に至ったケースも稀ならず存在します。もちろんゾルピデムは睡眠薬ですので、睡眠の効果を得るために服用量が増えていった症例もあり、ゾルピデムの離脱で幻視や幻聴が生じたケースもあるようです2)
 なお、とある医師が「ゾルピデムは依存がない」と豪語したという話を聞いたことがあります。しかし残念ながらそれは誤りということになります。

・転倒や骨折
 文献検索サイトで、zolpidem(ゾルピデム)、fracture(骨折)の用語で検索すると、かなりの論文がピックアップされます。いずれも、ゾルピデムを服用している人たちにおいて、優位に転倒や骨折のリスクが上昇するという内容です。骨折の中で最もよく見られるのは、大腿骨近位部骨折で3)、通常整形外科的には手術を必要とするものです。特に高齢者では転倒や骨折のリスクが高いとされています3)4)。巷では「ゾルピデムは従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べ転倒のリスクが少ない」と謳われていることもあるからか、高齢者に対しゾルピデムが処方されているケースをよく見かけます。しかしながら、実際にはゾルピデムも、ベンゾジアゼピン系と同様に転倒には注意が必要だといえます。

・睡眠時の異常行動 
 アメリカ食品医薬品局(FDA)は、ゾルピデムなど3種の睡眠薬(注1)について、服用後にまれに異常行動が現れ、時には重篤なけがや死亡に至る恐れがあると強く警告しています。睡眠随伴症状といわれるもので、この薬を服用後、覚醒しないまま歩き出し、車の運転をし、その他ストーブをたくなどの行動を起こしてしまい、その間本人は全く覚えていないというものです。実際に、これらの異常行動により、転落、やけど、一酸化酸素中毒、溺れ、低体温、交通事故、自傷などで死に至ったケースがあったとの報告があります5)
 わが国ではつい先日、ゾルピデムなどの睡眠薬(注2)の添付文書に、「禁忌」として、「本剤により睡眠随伴症状(夢遊症状等)として異常行動を発現したことがある患者」が追加されました6)。なお当院でもゾルピデムによる異常行動のケースを経験したことがあります(注3)。このような患者さんに対し、直ちにゾルピデムの漸減・中止をしたところ、速やかに異常行動は消失しました。

(注1)ゾルピデム、エスゾピクロン(商品名「ルネスタ」)、zaleplon(本邦未承認)
(注2)ゾルピデム、ゾピクロン(商品名「アモバン」)、トリアゾラム(商品名「ハルシオン」)。なお、エスゾピクロンについては「慎重投与」の項に「異常行動」についての記載が追加されました。
(注3)当院では原則的にゾルピデムの新規処方はしておりません。ただ、前医でゾルピデムが処方されていた患者さんについては当院でもやむなくこの薬を継続して処方することがよくあります。

・リスクではないが・・・統合失調症や躁うつ病に伴う不眠には保険適応外
 ゾルピデムの添付文書にある効能・効果の項には次のことが記載されています。
「不眠症(統合失調症及び躁うつ病に伴う不眠症は除く)」
 すなわち、統合失調症や躁うつ病(双極性感情障害)に伴う不眠に対し、ゾルピデムを保険診療で使ってはいけないということです。

 

 ゾルピデムのリスクについて記載いたしました。ゾルピデムにも、依存や転倒等のリスクがあり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と同等に注意が必要です。
 当院では開業以来、原則的にベンゾジアゼピン系薬剤の新規処方は禁止という方針としております。それと同様に、ゾルピデムについても新規処方はお断りしております

 

【文献】
1)M Heydari, MS Isfeedvajani. Zolpidem dependence, abuse and withdrawal: A case report. J Research in Medical Sciences; Nov 2013; 1006-1007.
2)C Victorri-Vigneau, E Dailly, G Veyrac., et al. Evidence of zolpidem abuse and dependence: results of the French Centre for Evaluation and Information on Pharmacodependence(CEIP) network survey. Br J Clin Pharmacol. 2007; 64:2; 198-209.
3) Edinoff AN, Wu N, Ghaffar YT, et al. Zolpidem: Efficacy and Side Effect for Insomnia. Health Psychology Research, 2021; 9(1).
4) N Traves, A Perlman, LK Geron, et al. Z-drugs and risk for falls and fractures in older adults – a systematic review and meta-analysis. Age and Ageing 2018; 47: 201-208.
5) FDA NEWS RELEASE: FDA requires stronger warnings about rare but serious incidents related to certain prescription insomnia medicines. Updated warnings for eszopiclone, zaleplon and zolpidem. (FDAサイトより)
6) マイスリー錠 使用上の注意改訂のお知らせ 2022年7月 アステラス製薬株式会社.

 

 

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