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102. 胃カメラと「苦痛になりきる」

[2020.04.24]

 先日市内の病院で初めて人間ドックを受けました。
 その病院の6階に人間ドックの会場「予防医学センター」があります。通常の外来診療のフロアとは全く独立しており、たいていの検査はこのフロア内で受けることができます。待合ロビーはゆったりしており、内装は病院というよりは高級ホテルに近い印象でした。ただ、新型コロナウイルス感染対策のため、他の人とは離れて待つよう徹底的に指示されました。
 まずは、採血、視力、聴力、眼圧、眼底、胸部レントゲン、腹部エコーなど様々な項目の検査を受けました。途中で保健師さんによる問診、医師による診察も入りました。
 ひと通りの検査が済んだ後は、別のフロアへ移動し、胃カメラの検査です。
 胃カメラは研修医時代に、一度受けたことがあります。その際、咽頭反射(「オエーッ!」となる現象)が非常に苦しくて、七転八倒してしまいました。
 このため、胃カメラに対して恐怖心を抱いていました。また苦しい思いをするのではないか、と。しかし、ここは「恐怖突入」で検査を受けるしかありません。
 麻酔のスプレー(おそらく「キシロカインスプレー」か)を咽頭に散布した後、いよいよ検査開始です。カメラが口に入った瞬間、非常に苦しくなりました。何度か「オエーッ!」となってしまいました。ドクターや看護師さんから、「口をポカーンと開けて!」などと指示されましたけれども、とにかくつらくて仕方がありません。

 ちょうどその時、森田正馬先生の「苦痛になりきる」を思い出しました。苦痛なものは苦痛に感じるしかない。決して紛らわしをしてはいけない、ということです。

 森田正馬全集第5巻の455ページに、「苦痛の現在になりきる、決して気を紛らせてはならない」という項目があります。森田先生は「車酔い」を例にして次のように述べられています。

 もし素直な心ならば、当然、心がその苦痛の方に奪われるようになる。それでよい。すなわちこの時には、その苦痛に見入り、心をその方に集中して、いわゆる「なりきる」という風になればよいのである。
 例えば気分が悪い、ムカムカして今にも吐きそうになる。このとき決して心を他に紛らせないで、一心不乱に、その方を見つめている。息をつめて、吐かないように耐えている。吐けば楽になるとか考えて、決して気を許してはなりません。断然耐えなければならない。このとき、ちょっと思い違いやすい事は、自分の苦痛を見つめていると、ますます苦しくなるような気がして、ツイツイ気を紛らせて、他の事を考えたりしようとする事である。早く行き着いて寝ようとか、ここまで来たから、もう十分間だとか、都合のよい・楽な事を考えようとするからいけない。こんなとき、もう二、三分というところで、安心し気がゆるんで、急に吐き出すような事もある。1)

 胃カメラの苦しみに耐え続けていたところ、ドクターが「はい、終わりましたよ」と声をかけてくださいました。「え?もう終わり?」と少し気が抜けた感じでした。その直後に、胃カメラの結果について説明がありました。「腫瘍や潰瘍はありません。ピロリ菌感染の所見もなさそうです。特に問題なかったですよ」とのこと。とにかく一安心でした。

 人間ドック終了後、院内のレストランでお食事。ホテルのレストランで出されるようなお食事をいただくことができました。朝食は禁食だったこともあり、格別な美味しさでした。

 

【引用文献】
1) 森田正馬,高良武久(編集代表):森田正馬全集 第五巻.白揚社,東京,1975.

 

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