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141. 私がアルコール医療に強い関心をもったわけ

[2021.01.15]

 医師になって3年目、私は大学医局のトップからの命令でY県M地方のX病院(仮称)に配属されました。M地方はアルコール消費量が多い地域と言われています。噂によると、家を訪問するとお茶の代わりにお酒が出されるという話を聞いたことがあります(注:あくまでも噂です!実際のところはよく分かりません)。それだけにこの地域のアルコール関連問題は多く、X病院には多くのアルコール依存症の患者さんが通院されていました。X病院ではアルコール担当の医師がおり、私の上司の先生がその担当をされていました。
 私がX病院に配属されて数カ月。突然、アルコール担当のT先生(私が尊敬する先生の一人です)がX病院を辞められることとなりました。そして、私がアルコール担当の医師として指名されてしまいました。お恥ずかしながら、これまでアルコール依存症の医療に携わった経験はありませんでした。私が2年間研修した大学病院精神科では「アルコールの患者さんは診ない」方針でしたし、X病院に勤務してからもアルコール関連の患者さんはすべてT先生にお願いしてきましたから。T先生が辞められたあとは、残念なことにX病院にはアルコール医療について指導してくださる先生はいなくなりました。とにかく独学でアルコール依存症について勉強していくしかありません。新幹線で上京して大型書店でアルコール依存症についての書籍を数冊購入し、それで勉強を続けました。X病院では毎週、アルコール担当医師主催による患者さん向けの勉強会を開催していました。この際には何とかしてネタを考え、レジュメを作成したのを覚えています。
 しかしながら独学だけではどうしても行き詰ってしまいます。実際に我流でアルコール医療に携わってきて、このやり方で良いのだろうかと疑問に思いました。そんな中、大学病院でお世話になった先輩の先生からアルコール依存症研修のお話を伺いました。久里浜アルコール症センター(神奈川県横須賀市。現・久里浜医療センター)で4泊5日の研修を受けました。とても充実した研修で、特に認知行動療法を応用した3か月間の入院プログラムには目から鱗でした。早速X病院に久里浜方式を持ち帰り、入院患者さんに対する認知行動療法プログラムを導入いたしました。入院プログラムを修了された患者さんには、修了証をお渡ししました。修了証は、賞状の用紙を自腹で購入し、パソコンのプリンタで印刷したものです。とある患者さんが、これまで賞状は貰ったことがなかったから、修了証をもらった時は嬉しかったとお話されたのを記憶しています。
 アルコール医療に携わっていくうちに、依存症から回復される患者さんを目の当たりにするようになりました。アルコール医療にますます関心を持つようになり、更なる勉強のためにアルコール関連の学会などに積極的に出向くようになりました。また、断酒会のブロック大会やAAのイベントにも参加させていただきました。

 それから約10年後、私は那須塩原市で精神科医院を開業いたしました。開院以来当院では、他の医療機関では拒みがちなアルコール依存症の患者さんをお引き受けております。私のアルコール医療は、X病院での体験がベースになっていると言っても過言ではないと思います。ただ、この10年でアルコール医療の考え方が大きく変貌しました。X病院で行なってきたことが、最近の医療では通用しないことも多々あります。これからも、最新の知識を取り入れつつ、アルコール医療に携わっていきたい所存です。

 

 

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