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62. スカッとした体験 後篇

[2019.07.19]

 (前回の続きです)

 高橋英彦先生1)2)は、次の仮説を立てられました。

・「妬み」は不快で痛ましい感情だ。葛藤の時や痛みの時は、脳の「前部帯状回」が活動するといわれる。「妬み」の時にも「前部帯状回」が活動するのでは?

・一方、「線条体」という部位は報酬や快感に深く関与しているといわれる。シャーデンフロイデ(他人の不幸は蜜の味)の際にも、「線条体」が活動するのでは?

 

 そこで、高橋先生らは上記を検証するため、fMRI(機能的MRI)を用い、実験を行ないました。

 被検者は健康な大学生19名(男10名、女9名)。被検者には、主人公と3人の学生が登場するシナリオをよく読んでもらいます。

 

【シナリオ(一部)】(これは被検者が男性の場合です。女性の場合は、登場人物の男女が入れ替わります)

 あなた(主人公)は、理系の大学4年生です。IT企業に就職希望です。卒業試験の成績は、可もなく不可もなくのレベル。野球部に所属していますが、万年補欠です。趣味は旅行、ドライブ、時計の蒐集。都会の生活にあこがれています。彼女はいません。

 男子学生A:主人公と同じ高校卒で、同じく理系に所属。趣味やライフスタイルは主人公とほぼ同じで、同じIT企業に就職したいと考えています。野球部ではエースピッチャーで卒業試験の成績は優秀。女の子にモテモテです。

 女子学生B:文系に所属。バレー部のエースストライカーです。成績優秀で、地方銀行への就職を希望しています。趣味は主人公とは異なります。男子学生に人気があります。

 女子学生C:文系所属。バレー部では万年補欠。学業成績は平凡なもの。地方銀行への就職を希望。趣味はBとほぼ同じ。男子学生には人気がありません。

 

 まずは実験1についてスクリーンに表示されているのを被検者が見て、その際の脳の活動をfMRIで調べます。それから、についてどのくらい妬ましいか、1~6で示します(1=妬む感情なし、6=最高に妬ましい)。

 その直後に、実験2です。学生に不幸が起こった場面がスクリーンに表示されます。例えば、「が高級なフランス料理店でディナーをしたが、食中毒になってしまった!」「の中古の軽自動車がトラブル続きだ!」などという内容です。その場面における脳の活動をfMRIで調べます。その後、にどれくらい快感を覚えたかを1~6で示します(1=全く快感でない、6=最高に快感だ)。

 

 実験の結果です。平均の妬みのスケールは、でした。やはり、主人公と共通点が多く、主人公よりも優位に立つに対しより妬ましく感じるのでしょう。

 平均のシャーデンフロイデのスケールもでした。さらに、妬みの感情が強いほど、妬んだ相手に不幸が生じたときの快感も強い傾向にあることがわかりました。

 実験1でのfMRIでは、よりものほうが、「前部帯状回」の活動が高いことが分かりました。これは、妬みの感情が強いほど、「前部帯状回」の活動が強くなるということです。

 実験2でのfMRIでは、報酬や喜びに関与する「線条体」の活動が強くなっていました。更に、シャーデンフロイデのスケールが大きいほど、「線条体」の活動が強くなる傾向も示されました。

 さらに、fMRIで「前部帯状回」の活動が強いほど、「線条体」の活動も強い傾向にあることもこの実験でわかりました。すなわち、妬みが強いほど、妬んだ相手に不幸が起こった時の快感や喜びが強いということが、脳の活動からも明らかになったのです。

 

  この実験から、妬ましいと思っている人に不幸が起こった際に覚える快感や喜び、すなわち「スカッとした」感情は、不謹慎なものではありますけれども、まったく自然なものであるということがわかります。

 ただし、森田療法流にいうと、感情と行動は全くの別物。感情はコントロールできないものですが、行動はコントロール可能です。いくら「スカッとした体験」をしたからといえども、それを行動で示すことは相手とのトラブルの原因にもなりかねません。厳に慎んだほうが無難でしょう。

 

【引用文献】

1) H. Takahashi, M. Kato, M. Matsuura, et al. : When Your Gain Is My Pain and Your Pain Is My Pain: Neural Correlates of Envy and Schadenfreude. Science 323, 937-939,2009.62.

2)高橋英彦:なぜ他人の不幸は蜜の味なのか. 幻冬舎, 東京, 2014.(電子書籍版)

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