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208. 偽ベテラン

[2022.04.15]

 畑村洋太郎先生の著書「失敗学のすすめ」1)に「偽ベテラン」という言葉が登場します。その部分を引用します。

 世の中でベテランと呼ばれる人の中には、経験を盾に「オレはこいつのことをすべて知っているんだ」と豪語する人もいます。(中略)
 (「ベテラン」は)厳密にいえば、体験をベースにしながらも、さまざまな知識も貪欲に吸収している「本当のベテラン」と、経験だけはたくさんしてもなにひとつ知識化できないでいる「偽ベテラン」の二種類に分類されます。

 またそのあとに、このような「偽ベテラン」が失敗の種を大きく成長させる張本人になることが多い。それでいて組織の長をつとめていたり、ふだんは横柄にふるまっていることも多いので、こういう偽ベテランは組織にとってもかなりやっかいな存在だ、と畑村先生は述べておられます。

 ところで、私は勤務医時代に「偽ベテラン」の医師のもとで働いたことがありました。その医師は当時60~70代で、精神科医療の経験は40年くらいであり、大ベテランとも言ってもよいでしょう。しかしながら、彼の精神医学に対する考え方がかなり独特であり、まっとうな医療の考え方とはかなりの「ズレ」がありました。その医師がやらかしたことについてはとてもここでは書けませんが、中には精神医学上タブーとされている行為もありました。さすがに私も、その医師の治療方針に対し抗議したこともありました。すると彼は憤慨し「お前は医者になってまだ数年じゃないか!オレなんか40年もこの仕事をやっているんだぞ!」と怒鳴ってきました。その医師は、長年の医療の経験があるから、自分のやっていることは正しいという思い込みが激しかったのです。一方で日々勉強するという姿勢が彼には欠けていました。それゆえ精神医学上明らかに間違っていることも、彼は平気でやってしまったのでしょう。正直私は彼みたいな「偽ベテラン」にはなりたくないと誓ったのでした。
 私はまもなく医師免許を取得して20年になります。若い医師から「偽ベテラン」と呼ばれないよう、日々研鑽をしていかなければと感じております。

【引用文献】
1) 畑村洋太郎:失敗学のすすめ.講談社,東京,2005.

 

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