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246. 失敗も仕事のゆきづまりも、すべて自分のせいと思え

[2022.12.30]

 岡本常男さんのご著書「自分に克つ生き方 精神的危機を乗り越えた一経営者の“心の戦記”」1)を拝読いたしました。
 岡本常男さん(1924-2012)は、かつての大手スーパーだったニチイ(のちのマイカル)の創設に携わり、取締役営業部長、商品本部長、代表取締役副社長などを歴任されました。実は岡本さんも神経症に悩まれた一人です。岡本さんが営業本部長をされていた時に激務で食事が取れなくなり、体重が激減してしまうという危機的状況に陥りました。4か所の医療機関にて精密検査を受けるもいずれも「異常なし」。悶々とした日々をおくっていたある日、知人より森田療法を勧められます。その知人からもらった森田療法の本やカセットテープで勉強され、得た知識をもとにただちに実践されました。その結果、奇跡的な回復を果たされました。岡本さんを悩ませていたのは、胃腸神経症(現代の診断基準では「身体症状症」に該当)でした。岡本さんはもっと森田療法を普及させたいという思いから、私財40億円を投じてメンタルヘルス岡本記念財団を設立されました。
 ご著書「自分に克つ生き方」では、まず岡本さんが森田療法との出会いにより神経症の危機から脱した体験談があり、そのあと心の危機はどのように訪れるかという話題を岡本さんの体験をもとに述べられています。そして最終章は「私が初めて知った“自分に克つ生き方”」。岡本さんの実体験をもとに作り上げた仕事哲学・人生哲学についての話題で、ビジネスマンにとって極めて有用な内容となっています。この章は9つのセクションからなります。(1)“あるがまま”の事実を認めよ、(2)理屈より行動を優先せよ、(3)失敗も仕事のゆきづまりも、すべて自分のせいと思え、(4)ものの見方を変えてみよ、(5)人の見方を変えてみよ、(6)長期目標を持て、(7)成功をイメージせよ、(8)一度は開き直ってみよ、(9)人生に意味のないことはない。その中で最も私が印象に残ったのは(3)です。その部分を要約します。
 会社で仕事がうまくいかないとき、人は二つの心理的態度をとる。ひとつは「他罰的傾向」で、すべての原因を他に押し付ける態度で、上司の指示がおかしいからだ、会社に信用がないからだ、などと考えるもの。もう一つは「自罰的傾向」で、思うように自分のやりたいことができない原因を、自分の頭の悪さや体力のなさ、気の弱さに求めるタイプで、自分の劣等感をどこまでも自分の責任にするもの。どちらが成功を収めるかというと、明らかに後者だ。「自罰的傾向」の人は、自分の欲求水準と現実の自分とのあいだのギャップに悩み、葛藤しているからだ。その葛藤が自分を高めようと前へ進むエネルギーを生み出すのだ。
 また、「失敗は言い訳せずに、すべて自分のせいと考えよ」。失敗した際には素直に非を認め謝ることと、失敗の原因を具体的に掘り下げ、二度と同じ過ちを繰り返さないことが重要だ、と述べられています。それを踏まえ、岡本さんの体験談が語られています。
 岡本さんがかつて経営していたお店で、お客さんが肌着を差し出し、「おまえのところは何とひどいものを売っているんだ」と苦情を言ってきました。岡本さんのお店で売ったこの肌着は不良品だったのです。調べたところ、この不良品の肌着を300枚売ってしまったことが発覚しました。困った挙句、岡本さんはお客さんにお詫びをしなければならないという結論に達し、「不良品でお客様にたいへん申し訳ないことを致しました。不良品を全品引き取らせていただきます」というチラシを配りました。全品返ってきたらお店として大損害です。しかし予想に反し、返品があったのはたったの4,5枚で、むしろ「それだけ商品に対して責任をもってくれるお店なら、今度からあんたのところで買ってやるよ」というお客さんの声の方が多かったそうです。これがひとつのきっかけで、お店が繁盛したとのことです。
 人は失敗をした際に、他人のせいにしたり、言い訳したりすることがよくあります。恥ずかしいことに、私も時折やってしまいます。岡本さんの文章を拝読し、そのような他罰的な態度は改めなくてはと反省したのでした。

 今年も当ブログをお読みいただき誠にありがとうございました。皆様、どうぞよいお年をお迎えください。

【文献】
1) 岡本常男:自分に克つ生き方 精神的危機を乗り越えた一経営者の“心の戦記”.ごま書房、東京、1989.

 

 

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