メニュー

300. 真っ直ぐに、ひたすらに

[2024.01.01]

 あけましておめでとうございます。本日、2024年が幕を開けました。
 そして当ブログは、ちょうど2024年元日である本日、300話に達することができました。様々な方から「ブログを読んでいます」などのお言葉を頂戴しており、たいへんありがたい限りです。この場を借りて御礼申し上げます。

 記念すべき300話は、私の大先輩である、精神科医の阿部憲史(あべ・けんし)先生についてのお話です。

 毎月自宅に届けられる月刊誌「致知」2023年12月号をめくっていたところ、阿部憲史先生のインタビュー記事を見つけました。阿部先生は、平成3年に山形大学医学部を卒業され、山形大学医学部附属病院での2年間の研修ののち、同大学の精神神経科に入局された先生であり、私の大先輩にあたります。先生は医大生時代、ラグビーの試合中の事故で頚椎を骨折、四肢麻痺となり、車椅子生活を余儀なくされました。現在は首から下の機能を失うというハンディを抱えながら、山形市の精神科クリニックにて診療を続けていらっしゃいます。私が山形で勤務医をしていたころ、研修会でよく阿部先生にお会いしておりましたし、何度か阿部先生のクリニックに患者さんを紹介させていただいたことも覚えております。「致知」で阿部先生の写真を見つけた時は、あたかも先生と再会したかのような感覚となり、早速こちらの記事を読ませていただきました。
 阿部先生は、先述のラグビーでの事故により、2年間の入院生活を送られました。入院生活では荒れたご様子だったとのことです。もう歩けない、医者になれない、結婚できない、と思うと目の前は真っ暗で、無性にいら立ち、看護師さんがご飯を食べさせてくれたあとにわざと吐き出す、面会に来てくれた友人たちを追い返す、付き添ってくれているお母さまと言い争いになる、という状況だったそうです。それでも、主治医もリハビリの先生も看護師さんも叱らないで阿部先生を受け入れてくれたそうで、このことは精神科医になって多くの患者さんと向き合ういま、大切な教訓になっていると振り返られています。
 阿部先生は2年間の入院生活ののち大学に復学されます。「医師国家試験に合格できなかったら除籍される」と思い、必死に勉強されたそうです。大学もその思いに応え、国家試験を受けさせる決断をしてくれて、医師国家試験当日は問題冊子の自動めくり機や鉛筆がなくてもマークシート問題に対応できるノートパソコンが設置された特別室を準備してくれたとのこと。阿部先生は無事国家試験に合格し、大学病院にて研修医として2年間ローテートされたのちに精神科の医局に入局されます。様々な科で研修された中で、唯一精神科の先生だけが車椅子の阿部先生を受け入れてくれたから、とのことです。大学病院にて精神科専属で診療を続けられ、教授の勧めにより37歳で「阿部クリニック」を開業されました。ご自宅をクリニックとして利用されており、その建物内は、診察室1つと待合室1つ、あとは駐車場のみの「日本一小さなクリニック」と先生は語られています。先生ご自身は手足の障碍があるため、カルテや処方箋は看護師さんが書いていらっしゃるとのこと。先生は、残された機能である、見る、聞く、話すを最大限に生かし、患者さんが診察室に入ってから出るまで、患者さんの顔から目を離すことはなく、表情や顔色を見続けて、症状や気持ちを探るようにされていると。その姿勢は日本一だと先生は述べられています(私(石川)も阿部先生のこのご姿勢を見習いたいです)。
 そのような阿部先生も、自分を肯定できなくなり、生きていたくないと落ち込まれることもあるそうです。しかし、「自分が暗い顔をしていたら、四肢障碍の自分を肯定し結婚してくれた妻は、医学生の息子は、あるいは患者さんはどんな気持ちだろうか」と考え、そう気持ちを切り替えると、運命を背負い、その中で最高の人生を模索していこうとする強い気持ちが湧いてくると述べられ、次のように語られています。

人生では思いもかけないことが押し寄せてきて、それを受け止めて生きていかなければいけません。大きな病気をすることも、障碍のあるお子さんを授かることもあるでしょう。そういう運命を抱えながら、それでも皆楽しく生きている。運命を受容しより幸せ、より楽しい人生を送ろうとされる患者さんをサポートするのが、私たち医療者の役目と思っています。

 阿部先生がクリニックを開かれてから27年間、大きな事故はなく、ほとんど休まずに診療を続けてこられたとのことで、「車椅子の先生だから休むのは仕方がない」というイメージだけは避けたいという思いがあったからだそうです。
 インタビュー記事の締めくくりで阿部先生が述べられたお言葉を引用いたします。

私は「真っ直ぐに、ひたすらに」という言葉が好きなんです。(中略)医療をする上で忘れてはならない誠実さ、それはひたすら努力を続ける中で生まれるものだと思います。人の命を扱う人間は、そのくらいの姿勢でなくてはいけないし、これからもその生き方を貫く決意でいます。

 阿部先生の記事を拝読し、改めて私は、患者さんに少しでもプラスになれるよう、地域医療に貢献できるよう、精進していきたいと感じたのでした。

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

【引用文献】
致知 2023年12月号 「運命を背負い、最高の人生を模索する」 阿部クリニック院長 阿部憲史
なお、致知出版社HPでは、ピックアップ記事を読むことができます。
https://www.chichi.co.jp/info/chichi/pickup_article/2023/202312_abe/

 

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME