92. 休息は仕事の転換にあり
前回ご紹介した「疲労ちゃんとストレスさん」1)の第七章には、疲労回復の仕組みが紹介されています。人が休んでいる間に「疲労回復因子」が働き、「疲労因子」を取り除くことで、疲れが取れるとされています(本書にはより詳しくそのメカニズムが掲載されていますが、ここでは割愛します)。「疲労回復因子」を増やすことが究極の疲労回復対策といえます。それについては慈恵医大のプロジェクトで絶賛研究中とのことです。
なお、CMなどで「疲れが取れる」などとうたわれているドリンク剤は、実際には「疲労感」を一時的に軽減するだけで、疲れそのものを取る効果はないとのこと。むしろドリンク剤で疲労感をごまかしつつ無理をすることでますます疲れがたまっていき、しまいには危険なことになると、著者の近藤先生は警告されています。
本書には一つだけ「疲労回復因子」を増やす方法が紹介されています。それは、「軽い運動」をすることです。マンガで、近藤先生(の分身)が「デスクワークで疲れた時などは、少し体を動かした方が、早く回復する気がしないか?」と問いかけられる場面があります。
そのお話を読んで、私は、森田正馬先生のお言葉「休息は仕事の中止に非ず、仕事の転換にあり」を思い出しました。
我々は、仕事などで疲れると、横になって休んだり、お茶を飲んで一服したりすると思います。しかし森田先生は、仕事を中止して一休みしなくとも、仕事の内容を転換させることでも休息はできることを述べられています。
「森田正馬全集 第五巻」2)の424ページから引用します。
僕が病院から帰ってくる。その疲れた身体で、洋服の上着を脱ぎ、チョッキやズボンのボタンをはずしながら、庭に出て盆栽をいじったり、庭木に鋏を入れたりする。その間に、いつしか心が流転して、疲労も忘れて、新たに仕事の元気が出るようになる。こんなことで、「休息は、仕事の中止に非ず。仕事の転換にあり」ということが、よく体験されるのである。
庭での作業は一種の軽い運動にあたります。それにより「疲労回復因子」が増え、その結果疲労が解消される、というメカニズムが想像されます。それだけでなく、次々に仕事を転換させることで、作業の効率も上がります。
現在、近藤先生のプロジェクトにて疲労の研究がされていますけれども、それよりも80年以上前に、森田正馬先生は疲労回復法を提唱されていたのですね。その森田先生の偉業には驚嘆するばかりです。
【引用文献】
1) にしかわたく(漫画・原作),近藤一博(監修・原作):疲労ちゃんとストレスさん.河出書房新社,東京,2019.
2) 森田正馬,高良武久(編集代表):森田正馬全集 第五巻.白揚社,東京,1975.