91. 疲労ちゃんとストレスさん
マンガ「疲労ちゃんとストレスさん」1)を拝読いたしました。
これは、東京慈恵会医科大学(慈恵医大)ウイルス学講座教授の近藤一博先生が監修されており、漫画家・にしかわたく先生がマンガにされたものです。つねに疲労感を訴えるサラリーマン・目野下くま夫と、その先輩の度絵巣川(どえすがわ)ひろみが、慈恵医大教授の近藤先生とばったり出会い、それがきっかけで2人が慈恵医大の近藤先生の研究室に訪ねる、というストーリーになっています。慈恵医大のスタバや蕎麦屋さんも登場します。余談ですが、森田療法の創始者・森田正馬先生はここ慈恵医大・精神神経科の初代教授です。
疲労は日本の国民病といわれています。「あなたは今疲れていますか?」というアンケートをアメリカにて取ったところ、「はい」と答えたのは10%にも満たなかったのに対し、日本では「はい」と答えたのはなんと56%だったそうです。我が国では自己主張を抑えて勤勉に働くことが美徳とされており、休むことを軽視し、疲れをためてしまっていることが要因ではとされています。疲労によるうつ病や自殺は欧米諸国より深刻。過労死という言葉が“Karoshi”としてそのまま英語になってしまっているほどです。
このような事情から、日本では国家プロジェクトとして疲労の研究グループが立ちあげられました。殊に慈恵医大では疲労の研究に力を入れているそうです。
本書では、疲労の客観的測定法や疲労のメカニズム、疲労とストレスの関係など、研究の最前線が、マンガでわかりやすく解説されています。また、登場人物が個性的であり、常にヘタレな目野下君、名前のごとく「ドS」な度絵巣川さん(私見では「ツンデレ属性」だと思います)、そして感じの悪い近藤教授などが登場し、ストーリーを読んでいるだけでも楽しめるようになっています。
私が本書で特に知りたかったのは、「どうすれば疲労を回復できるか?」ということです。疲労はうつ病と密接な関係にあるため、疲労回復の手段が分かれば、うつ病予防にも役に立つと考えたからです。しかし残念ながら現段階では研究中とのことです。現在慈恵医大では、疲労回復に関する食品の栄養成分の研究や運動療法の研究が行われているそうです。本書の続編が出版された暁には、疲労回復法についての情報を提供されたいと近藤先生がコメントされており、私も大いに期待しております。
【引用文献】
1) にしかわたく(漫画・原作),近藤一博(監修・原作):疲労ちゃんとストレスさん.河出書房新社,東京,2019.
【補足】慈恵医大・ウイルス学講座のホームページに「マンガでわかる!『最新!疲労・ストレス講座』」が公開されています。登場人物は全く異なりますが、本書と同じような内容が掲載されていますので、ご興味のある方はご覧ください。