228. 追悼・稲盛和夫氏
京セラの創業者で名誉会長の稲盛和夫氏が逝去されました。享年90。私は稲盛氏のご著書に感銘を受けた一人であり、当院ブログでも稲盛氏のエピソードを何度か掲載しています(86話、90話など)。
私が初めて稲盛氏のご著書に出会ったのは、今から約15年前です。書店でたまたま「生き方」1)という、稲盛氏の名著ともいえる1冊を見かけ、購入したのがきっかけです。当時私は、とある民間病院に勤務していました。そこの病院長は残念なことに、私が求めるリーダー像とは大変程遠い存在でした(具体的なエピソードはここでは割愛します)。そのような状況下、名経営者の書籍を読むことが私にとって癒しで、このような経営者が自分の上司であればいいなぁと想像しながら読んでいました。そんな中、稲盛氏の「生き方」を初めて読んだとき、他の経営者の書籍とは全く異なる印象を持ちました。これまで読んできた名経営者や名リーダーの書籍は、おごり高ぶった印象で、精神論に終始したものもよくありました。一方で、稲盛氏のご著書には全くおごり高ぶったところはなく、むしろ謙虚さが伺えました。それでいて、経営者の心構えについて非常に説得力のある内容で、「目からうろこ」ともいえる箇所も数多くありました。それがきっかけで、他の稲盛氏のご著書を数々購読してきました。
稲盛氏は、経営において「利他の心」(86話)が大切と説かれてきました。よい経営を続けていくには、心の底流に「世のため、人のため」という思いやりの気持ちがなくてはいけない1)、と述べておられました。稲盛氏が第二電電(DDI)を立ち上げられた際のエピソードは有名です。「電気通信事業に乗り出そうとするのは、ほんとうに国民のためを思ってのことか。会社や自分の利益を図ろうとする私心がそこに混じっていないか」「動機善なりや、私心なかりしか」という自問自答を繰り返されたそうです。半年後ようやく、自分の心の中には少しも邪なものはないことを確信し、DDIの設立に踏み切ったとのことです。DDI設立後も「国民のために」と稲盛氏が訴え続けてこられました1)。結果的にDDIの事業は成功し、現在ではKDDIとして国内屈指の企業に成長したことはご存じのとおりです。
なお、「利他の心」は当院のスローガンの一つにもなっています。私も、稲盛氏が強調されていた「利他の心」を大切にし、「地域のために」尽力していきたい所存です。
謹んでお悔やみ申し上げます。合掌。
【引用文献】
1) 稲盛和夫:生き方.サンマーク出版,東京,2004.