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150. 依存症とは

[2021.03.19]

 当院ブログで何度か話題にしているマンガ雑誌「本当にあった笑える話」(ぶんか社、以下「ほんわら」)(61話など)に類似した雑誌に「本当にあった愉快な話」(竹書房、以下「ほん」)があります。これまで私は「ほんわら」のみを定期的に購読していました。しかし最近では「ほんゆ」も購入するようになりました。現役看護師の漫画家・あさひゆり先生による「コロナ禍でナースやってます」が連載開始されたためです。コロナ禍での医療現場をリアルに描いた作品で、大変勉強になります。また、にしかわたく先生(91話)の日本人傭兵のお話も面白く、毎月楽しみです。
 「ほんゆ」の冒頭部分は特定のテーマで特集が組まれています(このあたりが「ほんわら」と共通することです)。最新号(4月号)の特集は「死を招く依存症」でした。

しかしながら、内容を読んでかなり違和感を覚えました。「特定なモノにハマっているだけの状態」を、あたかも「依存症」として紹介されているからです。
 読者投稿マンガで「依存症」のケースとして紹介されたエピソードを3つ提示します(末尾に、掲載されたページを示します)。

A) 私(読者)はラジオ番組に多数メールで投稿している「メール職人」。番組で自分の投稿が読まれると喜び、自信作が没になると悔しくなる。メール職人の楽しみは、毎日放送されるラジオ番組で、翌日に読まれるかどうか結果が分かること。そのスピード感にハマり、今は立派な「投稿依存症」になっている。(p.5)
B) 知人が500円玉貯金にハマっている。500円玉のソリッド感がたまらず、押し入れの中には500円玉でいっぱいに。給料日には必要経費以外は500円に両替し、タンス貯金へ。もう知人は「依存症」だ。(p.7)
C)友人の舅がN〇Kの「朝ドラ依存症」。毎日朝の7時半と8時の放送を観て、昼には録画したものを観て、そして週末の一挙放送も必ず観る。小さい子供が「なんで同じものを観るの?」と訊いたところ、「誰かさんがうるさいから聞こえないんだよ!」と激怒した。(p.23)

 いずれのケースも、特定のモノにどっぷりハマっている状態とは言えますけれども、残念ながら(?)医学的には依存症とは全く言えません。

 依存症とは、特定の物質や行動のコントロールが効かなくなり、仕事や家事などができなくなるなど日常生活に著しく支障が生じ、健康問題、金銭問題、人間関係の問題など様々な問題が生じても、依存対象の物質や行動がやめられない疾患(注)のことを言います。家族など周囲の者を巻き込むことも多いです。上記のケースA~Cには、ハマったものが原因で日常生活に支障をきたすとか、自分でやめようとしてもうまくいかない(コントロール障害)とかの描写は一切ありません。今回の特集マンガは、依存症に対する誤解を読者に与えてしまうのではないかと危惧しております。今回の特集のタイトルは、せめて「私、こんなものにハマってます」あたりにとどめておいた方がよかったのではないでしょうか。

 

【おまけ】「ほんゆ」の名誉のために・・・18頁のケースも紹介します。
D)母は「パチスロ依存症」。生活費の殆どをパチスロに使っていた。母が「姉の家に行く」と言っていたのを聞き、怪しいと思った読者がパチンコ屋へ行くと、母がそこにいた。母は案の定嘘をついていたのだ。パチンコ屋へ行く途中、スクーターに乗った奴から現金の入ったバッグを盗られ、転倒して大けがしたこともあった。それでもパチスロ通いを続けている。

 これについては、家族に嘘をついてパチスロ通いをしており、金銭問題などがありながらもパチスロがやめられないというコントロール障害を疑います。依存症(米国精神医学会の診断基準DSM-5の「ギャンブル障害」)の可能性を考えました。もしかするとその「母」は、家族に内緒でカードローンなどの借金をしているのでは・・・などと想像してしまいます。

 

(注)WHOの診断基準「ICD-10」による、依存症候群の基準を示します。なおこれは、厳密にいうと、精神作用物質(アルコール、覚せい剤、麻薬、向精神薬など)による依存のものです。巷で言われる「ゲーム依存」、「ギャンブル依存」など、行動のコントロールが効かない状態のことは、「依存」ではなく「嗜癖」という言葉を用いることが多いです。

その物質を使用したいという強烈な欲求(渇望)(仕事等でもその使用のことを考える、仕事中にも使用する、家族に隠れて使用する)
コントロール障害(前もって決めていた量や時間よりも多く使用してしまう、今日は使用しないと誓っても使用せずにはいられない)
離脱症状(急にその物質をやめると、イライラ、不眠、震戦、発汗などの症状が出現する)
耐性(多量に使用しないと、満足した効果を得られない。例:前と同じ飲酒量では酔わなくなり、次第に量が増えてきた)
その物質中心の生活(仕事や趣味、大切な要件よりもその物質の使用を優先する)
有害な結果が生じるのにかかわらずその物質がやめられない(その物質により様々な問題が生じているのを分かっているのに、それをやめられない)

 

 

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