192. 「べてる」の佐々木さんのこと
11月23日、3年ぶりに「べてるまつり」に参加しました。
「べてるまつり」は、北海道浦河町の「浦河べてるの家」(以下「べてる」、13話参照)にて年1回開催されるイベントです。私も何度か「べてるまつり」に参加しており、2018年に参加した際のレポートを14話にまとめています。例年「べてるまつり」は浦河町で開催され、この日は全国から多くの医療従事者や当事者などが訪れます。しかし、今回はコロナ禍であることから、無観客でオンライン開催となりました。
今回は、今年9月に亡くなられた佐々木実さんを偲ぶコーナーがありました。
佐々木さんは、統合失調症の当事者で「べてる」創成期からのメンバーでした。「(有)福祉ショップべてる」の社長、「社会福祉法人浦河べてるの家」の理事長などを務められ、「べてる」のメンバーからは「社長」と呼ばれ親しまれてきました。
「べてる」のメンバーでお金の苦労をされる方はかなり多い中、佐々木さんは、お金に関しては非常に誠実だったそうです。佐々木さんのエピソードとしてあまりにも有名なのが、「1枚のガムを、何日も噛み続ける」というものです。いったん噛んだガムを入れ物に保管しておいて、次の日もそれを噛む、ということをしてきたそうで、味がしなくなったガムを1週間噛み続けてきたというお話もありました。また、冬は節約して暖房を焚かず、服装も大バーゲンで安い服を見つけて買うなど質素だった模様。一方でたまったお金は、惜しみなく「べてる」や教会に捧げていたそうです1)2)。
私が「べてる」を訪れた際に、何度か佐々木さんを見かけております(私の引っ込み思案な性格ゆえ、直接佐々木さんとお話することはできませんでした)。表舞台によく出てくるメンバーが多い中、佐々木さんはあまり表に出ず、慎ましい印象にありました。一方で佐々木さんは長年「社長」として「べてる」のリーダーを務めてきました。佐々木さんのリーダー像について、向谷地宣明さん3)は「サーバントリーダーシップ」という言葉を用いています。「サーバント」とは「奉仕する人」の意。管理(コントロール)型のリーダーシップとは異なり、「サーバントリーダーシップ」では、リーダーでありながら率先して人に奉仕して、互いに奉仕しあうことを奨励する構えをとります。佐々木さんはいつも穏やかなまなざしで静かな声で語り、人をコントロールすることは全くなく、一貫して見えないところで静的な支援に徹していたそうです。
なお、佐々木さんは生前に次のことを述べています。これは、「べてるまつり」の際に映像で流れたものです2)。
「やっぱり、他者に仕えるって、しもべになるって、必要かなと思いますね。上に立つ人ほど、人に仕えなさいっていいますから。仕えるってね、大変だと思うんですけど、奉仕する感覚で」
私も、このような佐々木さんのリーダーシップ論には学ぶべきところがあると感じたのでした。
本年も当院ブログをお読みくださいまして、誠にありがとうございました。皆さま、どうぞ良いお年をお迎えください。
【引用文献】
1) べてるの家情報誌「べてるもんど」Vol.20
2) べてるの家メールマガジン「ホップステップだうん!」Vol.233
3) べてるの家メールマガジン「ホップステップだうん!」Vol.228