193. 奉仕
先日、青木薫久先生著「《新装版》なんでも気になる 心配性をなおす本 よくわかる森田療法・森田理論」(KKベストセラーズ)を読み直しました。
このご著書は、私が学生時代に森田療法に出会った直後に拝読したもので、当時苦しんでいた神経症的な悩みからの回復に大いに役に立った本です。森田療法のエッセンスが分かりやすくまとめられており、かつ切れ味が鋭い内容で書かれています。もちろん、私が医師になってからも何度も読み返しており、読むたびに新たな発見があるものです。もし森田療法の本の中で最も名著だと思うものを挙げてくださいと訊ねられたら、私は迷わず青木先生の「心配性をなおす本」と答えることでしょう。
さて、今回このご著書を再読し、最も印象に残ったのは、「人のためにつくす」という言葉です。不安や悩みなどの渦中で苦しい中でも、「人のためにつくす」プラスの行動をしていく大切さを、青木先生は強調されています。特に8章では「人のためにつくす」ことについての詳細な解説があり、生きることの困難さにぶつかった時こそ「人のためにつくす」行動をすることで悩みを乗り越えられると述べられています。末期ガン患者の集まりである「生きがい療法」(41話など)では、「人のためにつくす」活動をすることで、半年の命と言われていたのに、1年、2年経っても死なないという方が次々に出てきたというエピソードも紹介されています。
また、「人のためにつくす」とおおむね同じ意味で「奉仕」という言葉も登場します。青木先生は「『向上―奉仕―向上』ではなく、『奉仕―向上―奉仕』が大切なのだ」と述べられています。まず「向上」を主軸にした場合として、商売を例に挙げられています。商売をするにも、ただ儲けるだけというわけにはいかず、サービスもしなければなりませんから、「向上―奉仕―向上」というパターンができあがります。“向上”をするために“奉仕”をし、そして“向上”を勝ち取る方針です。しかしときには“向上”のために、悪だくみを働かせる人もいます。これでは結局破綻することになります。
一方で「奉仕」を主軸にした場合について、青木先生は次のように述べておられます。
やっていることが多くの人たちに役立ち、だからその人たちがこの行動を支持してくれます。多くの人たちの要請を受けてすることに“終着駅”はありません。
行動する人は、さらに自分自身をはげまして前進していきます。だから“奉仕”を主軸にした行動のなかから生まれる“向上”には、それこそ無限の“向上”がありますし、多くの人たちの力も加わって、質のみならず量においても、思いもよらなかったような、大きな成果をあげることだってあるのです。
この「人のためにつくす」や「奉仕」の考え方は、神経症の陶冶のためだけでなく、実生活をより良いものにするためにも大いに応用できるものと考えます。もちろん医療活動を行なううえでも大いに役に立つものであると感じたのでした。
2022年が幕を開けました。これまでの「利他の心」(86話)と同様に「奉仕」という言葉も念頭に置き地域医療活動に邁進していきたいと存じます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。