10. 森田正馬先生の生家を訪ねる
今回は、森田正馬先生の生家についての話題です。
「森田正馬没後80年墓前祭&記念講演会」の翌日(7月16日)に、「オプショナルツアー」が企画されていました。このツアーのメインイベントは、森田正馬先生の生家への訪問です。作家で精神科医の帚木蓬生先生も参加されるとのことで、私もぜひともエントリーしたい気持ちがありました。しかし残念なことに、スケジュールの都合でツアーへの参加を断念せざるを得ませんでした。
ただ、せめて、生家の外観だけでも拝見したい!という思いがありました。幸い、墓前祭&記念講演会の前日(14日)、昼ごろに高知入りすることができました。その日に泊まるホテルのチェックイン時刻までたっぷり時間があります。そこで急遽、先生の生家のある、香南市野市町兎田(うさいだ)に向かったのです。
森田先生の生家に到着いたしました。高良武久先生(森田先生の弟子のひとりで、慈恵医大精神医学講座の第二代教授)の筆による記念碑が建てられています。
生家の外観です。建造物を拝見しながら、「森田療法の更なる普及・発展に貢献していく」決意を新たにいたしました。
この生家は、文化財的価値を十分に有する建築物であることが専門家による調査で明らかになっています。建築時期は不明とのことですが、江戸末期~明治初期のものとの見解があります。当時の職人による優れた意匠が随所で見られ、一度取り崩してしまうと現代の技術では再現不可能な箇所もあるとのことです。このようなことから、建築学的に貴重な建造物であると言えます。また、なんといっても、フロイトに並ぶ世界的精神医学者である森田先生がかつて過ごされた住まいですから、精神医学史の観点からも非常に重要な建築物であることは間違いないでしょう。
しかしながら、約6年前にこの森田先生の生家を解体するという話が持ち上がりました。もともとこの生家は旧香美郡野市町により管理され、不登校児の学び舎「森田村塾」として使用されてきました。平成18年、町村合併に伴い、香南市による管理となります。平成24年、香南市は、老朽化による耐震性の問題を理由に、生家を取り壊した上で、新たな「森田村塾」を建てるという計画を立てたのです。すぐさま地元関係者から日本森田療法学会にその情報が伝えられ、学会理事長により「森田正馬生家の補修・保存の要望書」が香南市に提出されました。また、地元有志により「森田正馬生家保存を願う会」が設立されました(私も会の設立趣意に共鳴し、入会しております)。そして森田療法の啓発活動(住民向けのセミナーなど)、生家のメンテナンス、市との交渉などが続けられました。結果、香南市は「森田村塾」を別の土地に新築することを決め(平成29年完成)、生家は存続されることとなりました。現在は、生家を修復・保存する費用の面、生家の活用方法など、多くの取り組むべき課題があるとのことです。
森田療法で救われた私も、森田先生の生家の保存を強く願うひとりです。微力ではありますが、保存へ向け何らかのお手伝いができればという思いでおります。そのためにはまずは森田療法の有用性を啓蒙していくことが私の使命だと考えております。
【引用文献】
1) 池本耕三、筒井昭子、伊丹仁朗 : 森田正馬生誕の地(高知県香南市)における森田療法の普及・啓発及び生家保存活動. 日本森田療法学会雑誌, 29 ; 93-99, 2018
2)筒井昭子、伊丹仁朗、市川浩孝、中村敬、北西憲二 : 森田正馬生家の現状と保存修復に向けての活動. 日本森田療法学会雑誌, 25 ; 113-122, 2014