368. オンラインカジノの危険性 前篇
先日、お笑い芸人やスポーツ選手が違法であるオンラインカジノをしていたことが報道されました。また、最近ではオンラインカジノにより依存症に陥った当事者のインタビューの特集を、YouTubeのニュース動画でよく見かけるようになりました。
オンラインカジノは違法であり、しかもギャンブル依存症に至るリスクが高いとされています。まずは、オンラインカジノの違法性、ギャンブル依存症について概説し、それからいかにオンラインカジノが危険なのか解説いたします。
オンラインカジノは違法である
オンラインカジノは、たとえ海外で合法的に運用されているものであっても、日本国内からアクセスし、賭博をすることは犯罪に当たります。具体的には、賭博罪(賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料)あるいは常習賭博罪(常習として賭博をした者は、3年以下の懲役)に相当します1)。オンラインカジノについて案内しているサイトで、「オンラインカジノを日本で取り締まる法律はない」「オンラインカジノは日本では違法ではない」「グレーゾーンだ」という記載を見かけますが、それは明らかに誤りです。
ギャンブル依存症について2)3)4)5)
(注)ギャンブル依存症は、正式な精神医学用語では「ギャンブル行動症」(「ギャンブル障害」、古い文献では「病的賭博」)と称します。ただ、このページではマスコミ等で最も普遍している「ギャンブル依存症」を用いて解説いたします。
ギャンブル依存症は、ギャンブル行動のコントロールができなくなり、その結果、身体的、精神的、社会的に影響を及ぼす「病気」です。主症状は「コントロール障害」で、ギャンブル行動に歯止めがかからなくなり、一度始めるとなかなか止められなくなるというものです。予算や時間を決めても守れません。ギャンブルで勝ったとしても、「もっと増やせる」と思い込み、さらに賭けてしまうこともありますし、負けた場合も「ギャンブルで取り返せる」という考えのゆがみから借金してでもギャンブルを繰り返してしまいます。頭の中は常にギャンブルのことでいっぱいであり、ギャンブル中心の生活になってしまいます。仕事がこなせなくなり、家族に尽くすこともできなくなります。このようなギャンブル行動のため、日常生活ではさまざまな問題が発生します。本人はそれを十分に認識しているのにかかわらず、ギャンブルをやめることができず、むしろエスカレートしていきます。
ギャンブル依存症でよく見られるのは、「借金」と「嘘」です。ギャンブル依存症のケースで特徴的なのは、1回に賭ける金が高額になることです。最初は少額だったのが、興奮や刺激を求めるためにより高い金額を賭けるようになるためです。次第に金銭感覚がおかしくなり、ギャンブルのために借金を平気でするようになります。「負けた分をギャンブルで取り返そう、今度こそ勝てる、そうすれば借金も返せる」というゆがんだ考えから生じます。しかしながら、実際にはギャンブルで常に勝てることはあり得ません。負けてしまい借りたお金も無くなり、それを取り返すためにさらに借金を重ねてしまうのです。中には、家族の金を盗むとか、お子さんのゲーム機を取り上げて金に換えてしまう話もよく聞きますし、職場の金を着服、窃盗した事件もよく報道されています。最近では闇バイトに加担するケースも話題に上がります。また、依存症者は自らのギャンブル行動を周囲に隠すために、嘘をつきます。家族には「懇親会があるので金を出してほしい」と頼み、実際にはその金をギャンブルに使ってしまったとか、職場に「出張をする」と嘘を言い、パチンコ屋に行ってしまったというケースもよくあります。
これらの病的なギャンブル行動は決して本人の意志の弱さや倫理観の低さによるものではありません。神経回路が変化し、ギャンブル行動のコントロールがきかなくなってしまう、れっきとした「脳の病気」の仕業なのです。
オンラインカジノは依存症になるリスクが高い!
オンラインカジノの特徴は、365日24時間いつでもアクセス可能な点です。また、スマホを使って手軽にいつでもどこでも賭けることができます6)。スマホを使用するゆえ、周囲の人にバレにくいとも言えます。更には、オンラインカジノでは、極めて短時間で勝敗が出てしまいます。しかも、配当の額が桁外れであり、依存症の当事者の話によると、「1分で30万円稼げる」「100万円賭けて1500万円になった」とのことです7)(それゆえ損失も多いといえます)。これらは、従来のギャンブル等(競馬、競艇などの公営ギャンブルやパチンコなど)にはない特徴で、オンラインカジノは非常に刺激や興奮を得やすく、しかも時間や場所を選ばずに賭けることができるわけですから、極めて短期間で依存症になる恐れがあるということです。オンラインカジノを始めて、借金するまでの期間はたった1週間だったケースも多いそうです8)。
また、オンラインカジノでは物理的に現金の出し入れがなく、スマホの中で金銭のやり取りをするので、数字が動いている感覚だけになり8)、その結果金銭感覚が分からなくなってしまうといわれます。いつの間にか残高がなくなると、それを取り返そう、今度こそ勝てるという思い込みから借金を重ねてしまいます。早期で金銭的に破綻してしまうことも多いとされます6)。
昭和大学医学部の常岡俊昭先生によると9)、オンラインカジノにより依存症になったケースでは、うつ病を併発する確率が高いそうです。中には抑うつ状態が強く、このまま自宅に帰すのが危険な状態と判断し、緊急入院を要するケースもあるとのことです。
(後篇に続きます)
【補足】
オンラインカジノの違法性や危険性を啓蒙することはとても大切なことと思います。しかしながら、これらを強調しすぎてしまうと、オンラインカジノが原因で依存症になった当事者やその家族が相談しにくくなってしまう恐れもあります。孤立することで、依存症はますます悪化します。一方でギャンブル依存症は、誰でもなりうる病気で、適切な医療機関や自助グループにつながることで回復可能とされています。下記のASKのサイトに、相談窓口の一覧が掲載されていますので、ご覧ください。
https://www.ask.or.jp/article/6512
【参考文献、サイト】
1) 警察庁:オンラインカジノを利用した賭博は犯罪です!
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/onlinecasino/onlinecasino.html
2) 樋口進監修:ウルトラ図解ギャンブル依存 病気を正しく理解して、嘘や借金の繰り返しをストップ.法研,東京,2023.
3) 帚木蓬生:ギャンブル脳.新潮社,東京,2025.
4) ICD-11 6C50 Gambling disorder
https://icd-11.online/6125
5) 公益財団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 ギャンブル依存症自己診断ツール『LOST』を 開発しました
https://www.scga.jp/news/press-181122/
6) NHKきょうの健康:ニュース 「オンラインカジノが急増!依存症のこわさと対策」
https://www.nhk.jp/p/kyonokenko/ts/83KL2X1J32/episode/te/L3KLL7GQ15/
7) 東日本放送:依存症当事者が語るオンラインカジノの実態 依存からの回復を支援する団体
https://news.yahoo.co.jp/articles/896426ba0dd073c0c94435b6615e955455ec6720?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20250402&ctg=loc&bt=tw_up
8) RKB毎日放送ニュース:「命を絶った仲間もいっぱい見てきた」検挙者数が過去最多に なぜオンラインカジノにはまるのか?「短期間で依存症に」経験者が語る危険性
https://www.youtube.com/watch?v=XEgaORI3jt4
9) NHK:相次ぐオンラインカジノ問題 狙われる日本 依存の実態と対策
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250223/k10014730971000.html