109. 天才型と努力型
漫画家・松岡奈奈先生の同人誌「天才じゃないふつーの人がマンガ家になるまで。」1)を拝読いたしました。これは、天才ではない「超ふつーの人」(本人談)の著者が、中学生の頃に漫画家の職業に憧れてから、約20年苦労と努力を重ね、遂には30代で漫画家デビューを果たすまでの体験を描いた、コミックエッセイです。
この作品の冒頭で著者は、「漫画家には天才型と努力型がいる」と述べられています。ドラマや映画では、監督、脚本、演出など役割分担されて作品が作られるのに対し、漫画ではこれらを一人で全てこなさなければなりません。しかも漫画を1作品制作するのに、かなりの労力と時間を要すると言われています。本書によると、天才の場合、次々に作品を投稿するため、すぐに画力やストーリー構成も上達し、デビューに近くなる、と書かれています。漫画家になるには、天才型の方が圧倒的に有利と思われるかもしれません。しかしながら、天才でない「ふつーの人」でも努力を積み重ねることで漫画家になれるのだ、というのがこの著書のテーマです。
著者は、大学生の頃から本格的に作品の投稿を開始されます。それから紆余曲折を経て、途中で何度も挫折しそうになりながらも、ついには30代でぶんか社の漫画雑誌「本当にあった笑える話スペシャル」にて漫画家デビューされました。本書にはその経緯が赤裸々に描かれています。また、なかなかデビューできない失敗の原因について、「しくじりポイント」としてまとめられており、漫画家を目指す方に対する啓蒙的な内容にもなっています。
本書を拝読し、自身に天賦の才能がなくても、投げ出さずに努力を続けることで自らの夢をかなえることができるのだ、ということを学ぶことができました。
なお、現在松岡先生は、「本当にあった笑える話」(61話、98話参照)にて、「子離れできない毒親をすててかけおちした話」を連載されており、私も毎月楽しく拝読しております。
さて、森田療法の創始者である精神科医・森田正馬先生は、天才と「ふつーの人」(平凡な人)について、次のような色紙を書かれています。
偉人者凡
天才奇
(偉人なる者は凡 天才は奇なり)
こちらの色紙について、大原健士郎先生2)は次のように解説されています。
天才とは、生まれつき備わる優れた才能の持ち主であり、偉人とは偉大な人物である。(中略)もちろん天才で偉人の人もいるであろうが、天才でなく、もともとは平凡な人間も、努力次第では偉人として尊敬されることもあるのである。
この色紙を直訳すると、偉人と呼ばれる人は本を正せば平凡な人間であり、天才は元来、他の人が思いつかない奇抜で、優れた才能の持ち主ということになろうか。
森田先生は、1920年ごろ、神経症の特殊療法である「森田療法」を創始されました。当時、神経症に対する治療法は確立されておらず、インチキ療法までもが横行していました。そんな時代に森田先生が作り上げられたこの療法は、他に類を見ない画期的なものとされました。これは、決して森田先生の天才的な発想によるものではなく、20年間の試行錯誤の末によるものであると、大原先生2)は述べておられます。また、森田先生自身も、天才と呼ばれることを好まず、「自分は人一倍努力して特殊療法を完成した。人は誰でも努力すれば偉大な仕事をすることができる」とおっしゃっていたとのことです2)。
確かに「ふつーの人」は天才のように一気に開花させることは困難です。しかしながら、「ふつーの人」でも、地道に努力を継続することで、自らの夢を実現させたり、偉大な仕事を成し遂げたりすることが可能なのだ、と言えるでしょう。
【引用文献】
1) 松岡奈奈:天才じゃないふつーの人がマンガ家になるまで。(同人誌)2017.
こちらの同人誌は、松岡先生の同人誌販売サイトにて購入できます。
→【松岡奈奈のアトリエ桃星社 - BOOTH】
2) 大原健士郎:日々是好日 森田療法は創造的体験療法.白揚社,東京,2003.