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98. まさか、私がパニック障害!?

[2020.03.27]

 私が毎月購読しているマンガ雑誌「本当にあった笑える話」(略称「ほんわら」)(61話参照)に、「まさか、私がパニック障害!?」1)という作品が連載されています。

 写真は、「ほんわら」2019年7月号の表紙の一部です。「当事者がセキララに告白!」と書かれており、おそらく実話をもとにした漫画作品と考えられます。

(注意!この記事には、作品のネタバレが含まれています!十分ご注意ください!なお、この作品には「第〇話」「第〇回」などの記載はありませんが、この記事では便宜上「第〇回」という記載をいたしました。2019年7月号に初めて掲載された回(SPゲスト1回目)を「第1回」としてカウントしています)

 主人公は、アラサーのフリーライターの女性。主人公は大学時代に知り合った男性との子を授かり結婚します。しかし結婚直後から義母から嫌がらせを受けるようになります。また、夫は家事どころか育児にも関わろうともせず、会社のサークルで遊びほうける状況。更には、主人公は夫から暴力を受ける事態に(第1回)。

 そんな中、主人公は自宅で突然息苦しさを自覚します。その翌日、主人公が仕事場でPCを使った作業をしていた際に、息苦しさ、動悸、全身が冷たくなる感覚、そして死んでしまうのではという恐怖が突然出現しました。その症状は時間が経てば自然に楽になります。ただ、帰りの電車の中でも、自宅到着時にも同様な症状が出るようになりました(第2回)。内科医を受診し心電図の検査を受けたものの、異常なしと言われてしまいます(第3回)。

 私は精神科医ですので、ここまでストーリーを読めば、主人公の疾患は「パニック症(パニック障害)」が極めて濃厚だろうと考察します(パニック症については16話をご覧ください)。パニック症を専門的に治療する診療科は、精神科あるいは心療内科です。この主人公もすぐさま精神科の医療機関を受診するものと予想していました。

 しかしながら、最新号(2020年4月号)に掲載されている第10回になっても、主人公はいまだ精神科を受診していないのです。

 内科で異常なしと言われてからの経緯は以下の通りです(以下ネタバレ注意です!)

・その内科医から「扁桃腺が腫れているかも」と言われ、耳鼻科へ。「これくらいの腫れで呼吸には影響が出ない」と言われる(第4回)。
・主人公は喘息ではと思い、再び同じ内科へ。喘息ではないと医師から言われる。その医師から精神科への受診を勧められるが、「自分が精神病だなんて!」と逆上(第5回)。ネットで、自分に類似する症状の人が精神科を受診したという記事を読むが、精神科へ行く勇気が出ない(第6回)。
・症状は一進一退を繰り返す(第7回、8回)。中学生の頃突然倒れた時に、養護教諭?から自律神経失調症と言われた出来事を思い出す(第8回)。「自律神経を鍛える」という本を買い、その著者が主催する集いに行き、ヨガのプログラムに参加(第9回)。
・早起きして散歩することで身体状態は改善。でも不眠があり、鍼灸師へ。針治療を受ける。胸を拳でたたく「ゴリラ」の手技を勧められ実行する。それで不眠はいくらか解消されたものの、鍼灸師では限界といわれ、漢方の薬局を紹介される(第10回)。

 いつになったら、この主人公は精神科を受診するのだろうか・・・と、ついもどかしくなってしまいます。しかしこれは決して主人公には非はありません。むしろ、パニック症のことを理解していない医療側に責任があると思います。第3、5回の内科医や第4回の耳鼻科医がパニック症の知識を持っており、「これは『パニック症』の可能性があります。これは精神科や心療内科が専門です」とコメントしたうえで、適切に精神科へ紹介してくれれば、この主人公がこんなにも遠回りする必要はなかったのに、と感じてしまいます(第5回で内科医が精神科を勧める場面はありますが、「ストレスが原因かもしれないから」とのうやむやな発言に終わっています)。

 とにかく我々精神科医がもっとパニック症について啓発していかなければならない!とこの作品を読んで痛感します。

 

【文献】
1) 妻咲たち(原作),あらた真琴(漫画):まさか、私がパニック障害!?.本当にあった笑える話,ぶんか社,東京,2019年7月号~2020年4月号.

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