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112. デパスの危険性

[2020.07.03]

 デパス(一般名:エチゾラム)(注1)は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬に属する薬剤です。これは、数ある抗不安薬の中で最もポピュラーとも言える薬剤ではないかと思っています。実際に、精神科のみならず、内科、整形外科などあらゆる診療科で処方されるケースを見かけます。
 どうしてこの薬がポピュラーと考えられるのか。まずは適応の幅広さです。この薬の添付文書にある【効能・効果】1)を見ると、

・神経症における不安・緊張・抑うつ・神経衰弱症状・睡眠障害
・うつ病における不安・緊張・睡眠障害
・心身症(高血圧症、胃・十二指腸潰瘍)における身体症状ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
・統合失調症における睡眠障害
・下記疾患における不安・緊張・抑うつおよび筋緊張
頚椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛

とあります。筋緊張に対する効能は他の抗不安薬の添付文書ではなかなか見かけない、ユニークなものです。ちょっとした不安(例:スピーチ前の予期不安)や不眠はもちろんのこと、心因性の身体症状(動悸、過呼吸などの自律神経症状)、精神的緊張を伴う高血圧、そして肩こりや腰痛、頭痛対してもこの薬が出されるのを見かけます。この薬はどういうわけか数年前までは向精神薬に指定されていませんでした。他のたいていのベンゾジアゼピン系抗不安薬が30日の処方制限があるのに対し、デパスは平成28年までは最大90日の処方が可能でした(注2)。これにより「気軽に処方できる安定剤」というイメージを、多くの医師に与えてしまったのではと私見では考えます。
 しかも、デパスには何といっても、即効性(切れ味のよさ)があります。この薬を飲むと、すぐに気持ちがほぐれる効果が実感できます。患者さんにとっては、すぐに効果が表れる薬の方が、満足するに決まっています。患者さんから「おかげさまでデパスで良くなりました!」という言葉を聞くと、その医師は味をしめ、次々と別の類似した患者にデパスを処方することになるでしょう。

 これだけ幅広い適応があり、気軽に処方できるというイメージもあり、しかも即効性のあるデパス。実をいうと重大なリスクがあることを理解している医師は残念ながら少ないのが現状です。
 デパスのリスクは以下の通りです。先述の通り、デパスはベンゾジアゼピン系抗不安薬に属します。よって、「ベンゾジアゼピン系薬のリスク」373839話で記したリスクと同じです。

・依存性、耐性、離脱
・ふらつき、転倒
・健忘、奇異反応、せん妄、脱抑制

 その中で、最も怖いのは、「依存性」です。デパスはベンゾジアゼピン系薬剤の短時間型であり、依存性のリスクが高い薬剤です。デパスをある程度長く服用することで依存が形成され、しかも保険適用の用量を守っても依存になるケースも数多いです(これを常用量依存と呼びます)。このような状態になると、わずかな量を減らすだけで離脱症状(反跳性の不安、交感神経の緊張症状(不眠、不安、焦燥感、振戦、発汗、消化器症状、頭痛、筋肉痛など)、知覚過敏)2)が生じえます。このような不快な症状のため、なかなか減量することができません。結果的に、ずっとデパスを飲み続けざるを得ない状況に陥ります。実際に、デパスの離脱症状に苦しまれる当事者のお話をよく伺います。いずれも医療機関で安易にデパスが処方され、それが漫然と継続処方され、結果的にデパスがやめられなくなった、という経緯です。なお、依存性についての詳細は38話をご覧ください。
 また、ふらつき、転倒も深刻な問題になりえます。デパスには筋弛緩作用があります。これにより、肩こりや腰痛、筋緊張性頭痛を軽減させることが期待できます。しかしながら、下肢の筋肉も弛緩してしまうため、ふらつくことがあります。特に高齢者でデパスが処方されるケースは要注意です。夜間にトイレへ歩くときにふらついて転倒し、骨折に至るケースもよく聞きます。高齢者の骨折は最悪寝たきりに至ることもありますから。
 更には、せん妄(一種の意識障害)、脱抑制(気持ちにブレーキが掛けられなくなり、気が大きくなり、思い切った行動を起こすこと)、健忘などのリスクもあります。認知症の発症リスクが高まるという研究結果もあります。詳細は39話をご覧ください。

 残念ながら現在でも巷では「デパスは弱い薬で安全だ」という誤解が多いのが現状です。しかしながら実際に、デパスにはこれだけの怖いリスクがあるのです。私はこれからも、ベンゾジアゼピン系薬剤、特にデパスの危険性について啓蒙していきたい所存です。なお、当院ではデパスの新規処方は一切禁止としていることを付け加えておきます。

(注1)「デパス」は、某製薬会社で販売されているエチゾラム製剤の商品名です。この薬剤のジェネリック医薬品が様々な製薬会社から販売されており、たいていは「エチゾラム」という商品名を用いています。ただ、「デパス」という商品名が圧倒的に有名であることから、この記事では「デパス」に統一しました。

(注2)平成28年、ようやく厚生労働省はデパス(エチゾラム)を向精神薬として指定し、投薬期間の上限を30日と定めました。

 

【引用文献】
1) デパス添付文書 2019年9月改訂版 某製薬会社ホームページから
2) 仙波純一:精神薬理からみたベンゾジアゼピン.調剤と情報,Vol.24 No.8,2018.

 

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